コトリカゴ

「はぁ……はぁ……」

 苦しそうに吐かれる息。胸が大きく上下する様子から、その苦しさが見て取れる。

 シングルベッドの上で、辛そうに顔を歪めるのはひとりの女性。まだ若く、見た目からして高校生ぽい彼女が、少しでも目を開く瞬間はなかった。

 ずっと固くぎゅっと閉じられていて、苦しさに耐えている。時折体勢は変えられるが、落ち着く時すらなかった。

 横たわるベッドのすぐ側に膝を着いて、彼女の手を握るひとりの男性。彼もまた若く、同年代、もしくは同級生だろう彼は、胸が張り裂けそうな表情で、ずっと彼女を見守っていた。

 外は、皮肉な程天気が良かった。ぽかぽかした陽気はそれだけで心穏やかになれて、散歩やお出掛けするにはうってつけ。心地よい風も清々しいのに――開けた窓から入ってきたそよ風に、そんな気分にすらならなかった。

 彼女にかける言葉はない。大丈夫? と、そんな訳ないことは明らかで、しんどいねと同調することはあまりにかけ離れた配慮だと思われた。

 ただ出来るのは、彼女の手を握ることだけ。
 こちらが気を強く持っていなければ、泣いてしまいそうになるのを必死に堪えて、ただただ時間だけが過ぎていく。

 日焼けすることを嫌っていた、白く細い手。若さの象徴でもある艶のある滑らかな彼女の手の甲には、びっしりと、気味の悪い紋様が広がっていた。
 何かの文字のような。植物の蔦のような黒い紋様は、手だけじゃない。もう全身を蝕んでいて、残すは顔だけとなっていた。

 最後。脳を侵食するかのように顔面に広がると、死ぬ。

 特効薬もない。治療法もない。ただ死を待つだけの不治の病。奇病が、彼女の命を奪おうとしていた。

「――リーン……」

 何処からか鈴の音が聞こえてくる。
 苦しさに耐え忍ぶ彼女の顔を見ていれば、うっすらと、顎に紋様が浮かび上がってきた。

 ゆっくりと。徐々に。
 しかし確実に奇病は、彼女の命を取ろうとする。

 残された時間がもうないと理解すれば、途端に視界がぼやけた。喉の奥がつんと痛くなる。目頭に溢れ出た涙を零さんと顔を上げてから、ずっと閉じられていた口を開いた。

「俺に……出来ることはある? して欲しいことはある?」

 弱々しく、掠れた声。本音じゃなかった。本当はこんなことを言いたくなかった。そんな想いが声音に表れる。

 ずっと閉じられていた目がゆっくりと開いて、苦しそうに、でもにこりと笑顔が作られる。

「う、ん……。もう……楽に、して欲しいな……」

 そう言って、あっと付け加えられる。

「でも、あなたに罪悪感を背負って欲しくないから……。それは避けて欲しいかな? 例えば睡眠薬とかを用意してもらえたら、後は私が、飲めるから……」

「ううん」

 穏やかに答えると、握っていた手を離した。そうして彼女の首に両手を添える。

「大丈夫。この村での自殺幇助は罪にならないから」

 不安を払拭するようににこと笑ってみせたが、堪えていた涙がぽろりと落ちた。