響と土日を共にしたおかげか、憂鬱な月曜日もまだ一週間の途中のような気分だ。とはいえ、体育祭は今週末。それを終えると中間試験が待っている為、この二週間は憂鬱に変わりない。
本日の四時限目の体育は、五クラス合同で行われている。やることは、二年生全体でするフォークダンスの練習。クラス別に輪が作られ、男子が輪の内側、女子が輪の外側に並び、音楽に合わせてペアを入れ替えながら単調なステップを踏んでいく。一度覚えてしまえば、なんて事は無い。
「はい、じゃあ次はオクラホマミクサーね」
体育担当の先生によって、オクラホマミクサの音楽が流される。
クラス別で何度か練習しているから、皆ステップもバッチリでスムーズに流れていく。少しくらいの間違いも、次の相手にバトンタッチされてしまえば目立つこともさほどない。
ただ、思春期の男女が触れ合うということは、色々と問題が生じる。踊っている最中は皆真面目に取り組んでいるものの、その後の休憩時間だ。その場に座って、前後の女子同士、男子同士でコソコソ話すことが多いのだが、それはもう開けた場所なので、近くにいる生徒の声はバッチリ聞こえてくる。しかも、俺の周りは、よりにもよってクラスの一軍メンバー。そして、無理やり場所を変更させられた早川だ。
「ねぇねぇ、早川さん。好きな男子いないの?」
「……い、いない」
「隣のクラスの濱田君とかどうなの? さりげなく、あっちの輪に入れるようにしてあげよっか?」
隣のクラスの濱田、彼の性格こそ知らないが、見た目はゴリラ。濱田には申し訳ないが、恋愛云々で一番に勧める相手ではないのは俺でも分かる。
そして、男子二人も茶化すように両手を前に掲げる。
「早川さんの手、握っちゃった」
「ちょっと手汗かいてたけど、もしかして俺、意識されてる? キャハッ」
何が『キャハッ』だ。苛々する。机があったら蹴り飛ばしたい。
しかも、それを言ったのは陸上部で一緒だった時倉だ。さして仲は良くなかったが、こんな最低な男の足は健康なのに、何故俺の足は……。完全に八つ当たりなのは分かっているが、俺は舌打ちして聞こえるように言った。
「チッ、お前ら小学生かよ」
案の定、彼らは突っかかって来た。
「は? 金山、何か文句あんのかよ」
「前々から思ってたけど、悲劇の主人公ぶって腹立つんだよ。お前、何様だよ」
それらに対し、俺は鼻で笑う。
「ハッ、誰もお前らのことだって言ってないんだけど。もしかして、自覚あり?」
「チッ」
「言わせておけば……」
対して、早川を弄っていた女子の宇野は、自分は関係ありませんといった様子で早川の後ろに隠れる。
「喧嘩だって、怖いね」
「…………」
自分を可愛いと思っている勘違い女子にもだが、それでも何も言わない早川に俺のフラストレーションは溜まる一方だ。
「早川、お前も嫌なら嫌って言えよ」
「私は……」
俯く早川を責めてもしょうがないのは分かっている。しかも、俺が庇ったせいで更に状況が悪化するであろうことも予測している。だから、響はいつも遠回しに庇っていたのだ。それなのに、俺ときたら――――。
時倉は、ニヤリと笑った。
「へぇ。金山って、早川さんのこと好きなんだ」
言わんこっちゃない。ここから悪ノリが始まっていく。
「よく見ると、根暗同士お似合いじゃん。修学旅行も同じ班だしさ、根暗カップル爆誕だな!」
「良かったね、早川さん。金山君、早川さんのこと好きなんだって!」
早川は、三角座りしたまま諦めたように顔を伏せた。
「はぁ……マジうぜぇ」
溜め息を吐きつつ睨みを利かせれば、一瞬怯んだ様子を見せる彼ら。しかし、まだ続けようとしてくる。
体育の先生は他クラスの指導に入ってこちらには気付いていないし、収拾が付かなくなってきたこれを半ば殴り合い覚悟で収めようと立ちあがりかけたその時、俺の三つ向こうにいる響が立ち上がった。
(はぁ、やっぱ響のようには上手く立ち回れないか)
その場に片膝を立てて座りながら、複雑な気持ちで響の動向を視界の片隅に入れて見る。
「あ、清水。お前も金山が可哀想なのは分かるけど、そろそろカースト考えた方が良いぞ」
「そうだね」
時倉の言葉にニコッと笑顔で応えた響は、転校初日から俺に付き纏ってはいるものの、普段は全体と当たり障りなく接している。故に、彼らは足を故障した俺が可哀想で、同情で行動を共にしていると思っているよう。陽キャの響と群れるべきは、自分たちだと思っている節がある。だから、当然彼らは、響が自分たちの方に立つと疑いもしない。
響が俺の横にちょこんと並んでしゃがんだ。
「ねぇ、金さん?」
「ん?」
「僕というものがありながら、浮気?」
「は?」
見れば、今にも泣きそうなほどに大きな瞳が潤んでいる。
この場を収めるのに、一体どういった流れで収拾をつける気だろうか。惚けながらも頭の回転が早い響のことだから、この後も尾が引かないように立ち回りそうな気がしているのだが……。
元々集まりかけていた周りの視線が、響が俺のところに来たことで更に集まっている。現状を途中から見た生徒は、俺が響を泣かしたと思っていることだろう。
「ちょ、こんなとこで泣くなよ」
その涙に本気で動揺していると、響が俺の腕にギュッと絡みついてきた。
「僕らって、何なの!? 僕はこんなにも本気なのに、金さんは……早川さんが可愛いからって……酷い」
「いやいやいや、それは流石にやめ……」
時既に遅し。
男性陣はドン引き、女性陣は頬を赤らめながらヒソヒソと話をしている。
「私、響君なら可愛いから、あるかもって思ってたの」
「あたしもあたしも、響君ならありだよね」
「え、何の話? 聞こえなかったんだけど」
「実はね、金山君と響君、デキてるらしい。けど、早川さんと三角関係なんだって」
「え、マジ!? ちょっと聞いて」
伝言ゲームのように、あっという間に輪の向こう側まで伝わってしまった。なんなら、他クラスにも伝わりそうな勢いだ。
「あ、みんな、これは誤解だから」
「誤解って、昨日僕が昼まで金さんを抱いて寝たの忘れたの?」
「忘れてないけど、言い方。そんな誤解を招く言い方すると……」
これまた勘違いは、あっという間に広がった。しかも、俺が受けで響が攻めという構図。せめて逆が良かった……ではなく。
「時倉! これ、どうしてくれんだよ!」
キッと睨みつければ、今までの反発心はどこへやら。時倉を含めた一軍連中は苦笑を浮かべた。
「わ、悪い。知らなくて」
「は、早川さん。残念だったね。他、探そ」
「はは、揶揄って悪かったな。清水、早川とのことは誤解だから」
更には、後ろを向いてコソッと呟いた。
「清水に、先に気に入られなくて良かったー」
「だな……って、金山たちに聞こえるって」
もう全部聞こえている。
そして、俺の平穏な高校生活はおわった。
「おい、響。他に方法あっただろ……」
「殴り合い?」
「その方がマシだったかも」
「あんな人たちの為に、停学処分なんて御免だよ。それに、僕は事実を言ったまでだし」
ニコリと微笑む響は、可愛い顔して腹黒い。
とはいえ、俺と響が恋仲にあると思わせることで、早川弄りを注意しやすくなったのは間違いない。さっきのように、俺と早川をくっ付けて揶揄われることだけはないだろうから。
本日の四時限目の体育は、五クラス合同で行われている。やることは、二年生全体でするフォークダンスの練習。クラス別に輪が作られ、男子が輪の内側、女子が輪の外側に並び、音楽に合わせてペアを入れ替えながら単調なステップを踏んでいく。一度覚えてしまえば、なんて事は無い。
「はい、じゃあ次はオクラホマミクサーね」
体育担当の先生によって、オクラホマミクサの音楽が流される。
クラス別で何度か練習しているから、皆ステップもバッチリでスムーズに流れていく。少しくらいの間違いも、次の相手にバトンタッチされてしまえば目立つこともさほどない。
ただ、思春期の男女が触れ合うということは、色々と問題が生じる。踊っている最中は皆真面目に取り組んでいるものの、その後の休憩時間だ。その場に座って、前後の女子同士、男子同士でコソコソ話すことが多いのだが、それはもう開けた場所なので、近くにいる生徒の声はバッチリ聞こえてくる。しかも、俺の周りは、よりにもよってクラスの一軍メンバー。そして、無理やり場所を変更させられた早川だ。
「ねぇねぇ、早川さん。好きな男子いないの?」
「……い、いない」
「隣のクラスの濱田君とかどうなの? さりげなく、あっちの輪に入れるようにしてあげよっか?」
隣のクラスの濱田、彼の性格こそ知らないが、見た目はゴリラ。濱田には申し訳ないが、恋愛云々で一番に勧める相手ではないのは俺でも分かる。
そして、男子二人も茶化すように両手を前に掲げる。
「早川さんの手、握っちゃった」
「ちょっと手汗かいてたけど、もしかして俺、意識されてる? キャハッ」
何が『キャハッ』だ。苛々する。机があったら蹴り飛ばしたい。
しかも、それを言ったのは陸上部で一緒だった時倉だ。さして仲は良くなかったが、こんな最低な男の足は健康なのに、何故俺の足は……。完全に八つ当たりなのは分かっているが、俺は舌打ちして聞こえるように言った。
「チッ、お前ら小学生かよ」
案の定、彼らは突っかかって来た。
「は? 金山、何か文句あんのかよ」
「前々から思ってたけど、悲劇の主人公ぶって腹立つんだよ。お前、何様だよ」
それらに対し、俺は鼻で笑う。
「ハッ、誰もお前らのことだって言ってないんだけど。もしかして、自覚あり?」
「チッ」
「言わせておけば……」
対して、早川を弄っていた女子の宇野は、自分は関係ありませんといった様子で早川の後ろに隠れる。
「喧嘩だって、怖いね」
「…………」
自分を可愛いと思っている勘違い女子にもだが、それでも何も言わない早川に俺のフラストレーションは溜まる一方だ。
「早川、お前も嫌なら嫌って言えよ」
「私は……」
俯く早川を責めてもしょうがないのは分かっている。しかも、俺が庇ったせいで更に状況が悪化するであろうことも予測している。だから、響はいつも遠回しに庇っていたのだ。それなのに、俺ときたら――――。
時倉は、ニヤリと笑った。
「へぇ。金山って、早川さんのこと好きなんだ」
言わんこっちゃない。ここから悪ノリが始まっていく。
「よく見ると、根暗同士お似合いじゃん。修学旅行も同じ班だしさ、根暗カップル爆誕だな!」
「良かったね、早川さん。金山君、早川さんのこと好きなんだって!」
早川は、三角座りしたまま諦めたように顔を伏せた。
「はぁ……マジうぜぇ」
溜め息を吐きつつ睨みを利かせれば、一瞬怯んだ様子を見せる彼ら。しかし、まだ続けようとしてくる。
体育の先生は他クラスの指導に入ってこちらには気付いていないし、収拾が付かなくなってきたこれを半ば殴り合い覚悟で収めようと立ちあがりかけたその時、俺の三つ向こうにいる響が立ち上がった。
(はぁ、やっぱ響のようには上手く立ち回れないか)
その場に片膝を立てて座りながら、複雑な気持ちで響の動向を視界の片隅に入れて見る。
「あ、清水。お前も金山が可哀想なのは分かるけど、そろそろカースト考えた方が良いぞ」
「そうだね」
時倉の言葉にニコッと笑顔で応えた響は、転校初日から俺に付き纏ってはいるものの、普段は全体と当たり障りなく接している。故に、彼らは足を故障した俺が可哀想で、同情で行動を共にしていると思っているよう。陽キャの響と群れるべきは、自分たちだと思っている節がある。だから、当然彼らは、響が自分たちの方に立つと疑いもしない。
響が俺の横にちょこんと並んでしゃがんだ。
「ねぇ、金さん?」
「ん?」
「僕というものがありながら、浮気?」
「は?」
見れば、今にも泣きそうなほどに大きな瞳が潤んでいる。
この場を収めるのに、一体どういった流れで収拾をつける気だろうか。惚けながらも頭の回転が早い響のことだから、この後も尾が引かないように立ち回りそうな気がしているのだが……。
元々集まりかけていた周りの視線が、響が俺のところに来たことで更に集まっている。現状を途中から見た生徒は、俺が響を泣かしたと思っていることだろう。
「ちょ、こんなとこで泣くなよ」
その涙に本気で動揺していると、響が俺の腕にギュッと絡みついてきた。
「僕らって、何なの!? 僕はこんなにも本気なのに、金さんは……早川さんが可愛いからって……酷い」
「いやいやいや、それは流石にやめ……」
時既に遅し。
男性陣はドン引き、女性陣は頬を赤らめながらヒソヒソと話をしている。
「私、響君なら可愛いから、あるかもって思ってたの」
「あたしもあたしも、響君ならありだよね」
「え、何の話? 聞こえなかったんだけど」
「実はね、金山君と響君、デキてるらしい。けど、早川さんと三角関係なんだって」
「え、マジ!? ちょっと聞いて」
伝言ゲームのように、あっという間に輪の向こう側まで伝わってしまった。なんなら、他クラスにも伝わりそうな勢いだ。
「あ、みんな、これは誤解だから」
「誤解って、昨日僕が昼まで金さんを抱いて寝たの忘れたの?」
「忘れてないけど、言い方。そんな誤解を招く言い方すると……」
これまた勘違いは、あっという間に広がった。しかも、俺が受けで響が攻めという構図。せめて逆が良かった……ではなく。
「時倉! これ、どうしてくれんだよ!」
キッと睨みつければ、今までの反発心はどこへやら。時倉を含めた一軍連中は苦笑を浮かべた。
「わ、悪い。知らなくて」
「は、早川さん。残念だったね。他、探そ」
「はは、揶揄って悪かったな。清水、早川とのことは誤解だから」
更には、後ろを向いてコソッと呟いた。
「清水に、先に気に入られなくて良かったー」
「だな……って、金山たちに聞こえるって」
もう全部聞こえている。
そして、俺の平穏な高校生活はおわった。
「おい、響。他に方法あっただろ……」
「殴り合い?」
「その方がマシだったかも」
「あんな人たちの為に、停学処分なんて御免だよ。それに、僕は事実を言ったまでだし」
ニコリと微笑む響は、可愛い顔して腹黒い。
とはいえ、俺と響が恋仲にあると思わせることで、早川弄りを注意しやすくなったのは間違いない。さっきのように、俺と早川をくっ付けて揶揄われることだけはないだろうから。



