突然響を家に招いたことで母から小言を言われるかと覚悟していたが、反対に泣いて喜ばれた。それもそのはず、足を故障してから俺は友人関係を全て断ち切って独りぼっちだったから。母としては、心配でしょうがなかったようだ。
どこか調子の悪そうだった響も、我が家に来てからは本調子に戻ったよう。持ち前のコミュ力で、すぐに両親からの好感を得て我が家にとっぷりと馴染んだ。
そして、今俺は安心して眠りにつく為の準備を始めている。
「響は、ベッド使って良いからな」
シングルベッドにテレビ、小学生の頃から使っている勉強机があるだけのシンプルな八畳の洋間。そこのベッドの横に布団を敷きながら響にベッドを譲る。
「わぁ、僕、ベッドで寝るの初めて!」
嬉しそうに飛び乗る響。ベッドがキィキィ音を鳴らした。
「あんま、ぴょんぴょん跳ねんなよ。壊れる」
「はぁい」
「てか、やっぱ俺のじゃデカいな」
響に貸した上下黒のスウェットはダボダボで、袖はもちろん裾はスカートのようにお尻まですっぽり隠れている。ズボンなんて二回も折っている。
「彼スウェットってやつだね。どう、金さん。僕、可愛い?」
小首を傾げる響は、それはもう可愛さしかない。俺がゲイなら即刻ベッドに押し倒していることだろう。とはいえ、天邪鬼になってしまった俺は本音を言うつもりはない。
「別に」
素っ気ない態度で返し、布団を軽く叩いてならす。ならしていると、響がベッドから布団におりてきた。俺の背中側にぺたんと座った響は黙ったまま何も喋らない。
怒らせてしまっただろうかと後ろを振り返ろうとした時、響が俺の背に寄りかかってきた。
「ちょ、ウザい」
「そんなこと言って。金さん、今日一緒に寝てあげないよ」
「は? な、なんで、俺がお前なんかと」
困惑しながら顔だけ後ろを振り返れば、響が俺の腹に手を回し、ニヤリと笑った。
「怖いんでしょ?」
響に抱きつかれていることもだが、それよりも響に心の内を全て見透かされていたことに動揺を隠せない。
「本当は、僕と一緒に寝たいんでしょ? トイレだって、一緒に行って欲しいんでしょ?」
「だ、誰が」
「素直になれば良いのに」
背中に顔を埋める響のその言葉は、俺に言っているようでもあり、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた――。
複雑な気分になりつつも、俺自身は、そう簡単に素直になれるはずもない。なれていたら苦労はしない。
俺は後ろを振り返って響の脇腹をくすぐった。
「ちょ、ハハハ、や、やめて、ハハハハハ」
「ッたく、生意気な口ばっかききやがって。本当は、お前が怖いんだろ」
「ハハハハハハ、もう、ギブ、ギブ」
「一緒に寝てくださいってお願いするなら、一緒に寝てやるよ」
涙を流しながら笑う響を解放すれば、肩で息をしてから、最後に「ふぅ」と深く息を吐いていた。
「もう、金さん。寝る前にそんなことしたら、寝らんなくなるじゃん」
「んじゃ、ゲームでもするか?」
「良いね。夜通し、しちゃう?」
「たまには気が合うじゃん」
俺はテレビを付け、その下に収めていたゲーム機を取り出した。
――それから、俺たちは互いに眠くなるまで遊び通した。最後に時計を見たのは三時四十五分だった。
◇◇◇◇
結局、俺は響と同じ布団の中で眠りに就いたようだ。目を覚ましたら、隣に響が寝ていた。
明け方の四時くらいに寝たこともあり、起きるのも遅かった俺だが、響はそれよりも遅い。俺が起きてから、かれこれ二時間が経っても起きない。既に時計は十三時を回っている。
外は雨模様なようで、遮光カーテンの隙間から光が漏れることもなく、部屋の中はずっと夜のようだ。
休日だから好きなだけ寝かせてあげたいのは山々だが、俺も腹が減ってきた。
「ただ、これ、どうしようかな……」
俺は響に抱き枕代わりにされて寝ていたようで、俺の脇腹の辺りに顔を埋め、腹の上や脚には響の手脚が乗っている。両手は自由に動くのでスマホでゲームをして時間を潰していたのだが、全く持って起きる気配がしない。
無理やり抜け出すことも考えた。いや、実際に無理やり抜け出そうとトライした。しかし、断念したのだ。何故って、響は寝起きがすこぶる悪い。
――二時間前、ずるずると上に抜け出そうとしたら、響がぼんやりと目を開いた。
『あ、悪い。起こした』
そのまま二人で起きて、遅めのブランチでも……そう思ったのも束の間、響は虚ろな瞳を細めガンを飛ばすように俺を見上げた。
『誰が行って良いって言ったの?』
『えっと……』
『俺の言うこと、聞けよ』
それは、加藤に一度だけ見せたあの冷徹な顔に似ていた。いや、一人称も『僕』から『俺』に変わって、それより怖いかもしれない。
素直に従う必要もないのだが、背筋がピリリと伸びた俺は素直に布団の中に戻り、響の腕の中に収まった。
『てか、お前……誰だよ』
『……スー……スー……』
『って、寝てるし』
それから、懲りずにもう一度抜け出そうとしたものの、結果は同じ。否、次はガンを飛ばされた時点で諦めた。
「はぁ……本気で極道だったりして」
それくらいの迫力があった。
どうしたものかと困り果てていると、響がもぞもぞと動いた。
「んんッ」
(お、これは、起きたか?)
声をかけるととばっちりに遭いそうなので、俺は持っていたスマホを枕もとに置き、目を瞑って寝たふりを決め込んだ。すると、響が顔を埋めていた辺りが徐々にひんやりと湿ってきた。
(まさか、よだれ……)
と思ったのも一瞬のこと、響のすすり泣く声が聞こえてきた。
「うう……ごめんなさい……ごめん、なさい……」
(……響?)
ひんやりとしたそれの正体が涙だと分かった俺は、響の頭を優しく撫でた。
(嫌な夢……見てんのかな)
頭を撫でてやったおかげか、すすり泣く声はしなくなり、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。
頭を撫でるのをやめ、起こすべきか、このままにしておくべきか……悩みに悩んでそのままにしておいたら、いよいよ響が目を覚ましたようだ。
「んんッ」
ムクッと起き上がった響を薄っすらと目を開けて観察する。状況を整理しているのか、響は座ったままキョロキョロと部屋の中を見渡した。そして、俺の頬をペタペタと触ってから、もう一度布団の中に入った。
(って、布団に入るんかい!)
再び抱き枕にされた俺は、これでは埒があかないと思い、睨まれるの覚悟でゆっくりと目を開けた。
「ん……」
「あ、金さん。ごめん、起こしちゃった?」
極道張りの厳つい響でもなく、泣いている響でもない。いつもの響で、ホッと胸を撫で下ろす。
「今、何時?」
知っているが、今起きたフリをせねば。
抱きつかれていることもスルーしながら、俺が自然と体を起こせば、響もまたその場にちょこんと座った。
スマホで時間を確認すれば十三時半になっていた。
「響、昼飯食って帰る?」
「ご迷惑じゃなければ」
「んじゃ、おりるか」
ようやく、俺たちは一日の活動をし始めた。
久々に友人とオールして、誰かと一緒にいることの楽しさを思い出した反面、響の知らない一面を垣間見て、俺の胸はざわついた。
どこか調子の悪そうだった響も、我が家に来てからは本調子に戻ったよう。持ち前のコミュ力で、すぐに両親からの好感を得て我が家にとっぷりと馴染んだ。
そして、今俺は安心して眠りにつく為の準備を始めている。
「響は、ベッド使って良いからな」
シングルベッドにテレビ、小学生の頃から使っている勉強机があるだけのシンプルな八畳の洋間。そこのベッドの横に布団を敷きながら響にベッドを譲る。
「わぁ、僕、ベッドで寝るの初めて!」
嬉しそうに飛び乗る響。ベッドがキィキィ音を鳴らした。
「あんま、ぴょんぴょん跳ねんなよ。壊れる」
「はぁい」
「てか、やっぱ俺のじゃデカいな」
響に貸した上下黒のスウェットはダボダボで、袖はもちろん裾はスカートのようにお尻まですっぽり隠れている。ズボンなんて二回も折っている。
「彼スウェットってやつだね。どう、金さん。僕、可愛い?」
小首を傾げる響は、それはもう可愛さしかない。俺がゲイなら即刻ベッドに押し倒していることだろう。とはいえ、天邪鬼になってしまった俺は本音を言うつもりはない。
「別に」
素っ気ない態度で返し、布団を軽く叩いてならす。ならしていると、響がベッドから布団におりてきた。俺の背中側にぺたんと座った響は黙ったまま何も喋らない。
怒らせてしまっただろうかと後ろを振り返ろうとした時、響が俺の背に寄りかかってきた。
「ちょ、ウザい」
「そんなこと言って。金さん、今日一緒に寝てあげないよ」
「は? な、なんで、俺がお前なんかと」
困惑しながら顔だけ後ろを振り返れば、響が俺の腹に手を回し、ニヤリと笑った。
「怖いんでしょ?」
響に抱きつかれていることもだが、それよりも響に心の内を全て見透かされていたことに動揺を隠せない。
「本当は、僕と一緒に寝たいんでしょ? トイレだって、一緒に行って欲しいんでしょ?」
「だ、誰が」
「素直になれば良いのに」
背中に顔を埋める響のその言葉は、俺に言っているようでもあり、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた――。
複雑な気分になりつつも、俺自身は、そう簡単に素直になれるはずもない。なれていたら苦労はしない。
俺は後ろを振り返って響の脇腹をくすぐった。
「ちょ、ハハハ、や、やめて、ハハハハハ」
「ッたく、生意気な口ばっかききやがって。本当は、お前が怖いんだろ」
「ハハハハハハ、もう、ギブ、ギブ」
「一緒に寝てくださいってお願いするなら、一緒に寝てやるよ」
涙を流しながら笑う響を解放すれば、肩で息をしてから、最後に「ふぅ」と深く息を吐いていた。
「もう、金さん。寝る前にそんなことしたら、寝らんなくなるじゃん」
「んじゃ、ゲームでもするか?」
「良いね。夜通し、しちゃう?」
「たまには気が合うじゃん」
俺はテレビを付け、その下に収めていたゲーム機を取り出した。
――それから、俺たちは互いに眠くなるまで遊び通した。最後に時計を見たのは三時四十五分だった。
◇◇◇◇
結局、俺は響と同じ布団の中で眠りに就いたようだ。目を覚ましたら、隣に響が寝ていた。
明け方の四時くらいに寝たこともあり、起きるのも遅かった俺だが、響はそれよりも遅い。俺が起きてから、かれこれ二時間が経っても起きない。既に時計は十三時を回っている。
外は雨模様なようで、遮光カーテンの隙間から光が漏れることもなく、部屋の中はずっと夜のようだ。
休日だから好きなだけ寝かせてあげたいのは山々だが、俺も腹が減ってきた。
「ただ、これ、どうしようかな……」
俺は響に抱き枕代わりにされて寝ていたようで、俺の脇腹の辺りに顔を埋め、腹の上や脚には響の手脚が乗っている。両手は自由に動くのでスマホでゲームをして時間を潰していたのだが、全く持って起きる気配がしない。
無理やり抜け出すことも考えた。いや、実際に無理やり抜け出そうとトライした。しかし、断念したのだ。何故って、響は寝起きがすこぶる悪い。
――二時間前、ずるずると上に抜け出そうとしたら、響がぼんやりと目を開いた。
『あ、悪い。起こした』
そのまま二人で起きて、遅めのブランチでも……そう思ったのも束の間、響は虚ろな瞳を細めガンを飛ばすように俺を見上げた。
『誰が行って良いって言ったの?』
『えっと……』
『俺の言うこと、聞けよ』
それは、加藤に一度だけ見せたあの冷徹な顔に似ていた。いや、一人称も『僕』から『俺』に変わって、それより怖いかもしれない。
素直に従う必要もないのだが、背筋がピリリと伸びた俺は素直に布団の中に戻り、響の腕の中に収まった。
『てか、お前……誰だよ』
『……スー……スー……』
『って、寝てるし』
それから、懲りずにもう一度抜け出そうとしたものの、結果は同じ。否、次はガンを飛ばされた時点で諦めた。
「はぁ……本気で極道だったりして」
それくらいの迫力があった。
どうしたものかと困り果てていると、響がもぞもぞと動いた。
「んんッ」
(お、これは、起きたか?)
声をかけるととばっちりに遭いそうなので、俺は持っていたスマホを枕もとに置き、目を瞑って寝たふりを決め込んだ。すると、響が顔を埋めていた辺りが徐々にひんやりと湿ってきた。
(まさか、よだれ……)
と思ったのも一瞬のこと、響のすすり泣く声が聞こえてきた。
「うう……ごめんなさい……ごめん、なさい……」
(……響?)
ひんやりとしたそれの正体が涙だと分かった俺は、響の頭を優しく撫でた。
(嫌な夢……見てんのかな)
頭を撫でてやったおかげか、すすり泣く声はしなくなり、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。
頭を撫でるのをやめ、起こすべきか、このままにしておくべきか……悩みに悩んでそのままにしておいたら、いよいよ響が目を覚ましたようだ。
「んんッ」
ムクッと起き上がった響を薄っすらと目を開けて観察する。状況を整理しているのか、響は座ったままキョロキョロと部屋の中を見渡した。そして、俺の頬をペタペタと触ってから、もう一度布団の中に入った。
(って、布団に入るんかい!)
再び抱き枕にされた俺は、これでは埒があかないと思い、睨まれるの覚悟でゆっくりと目を開けた。
「ん……」
「あ、金さん。ごめん、起こしちゃった?」
極道張りの厳つい響でもなく、泣いている響でもない。いつもの響で、ホッと胸を撫で下ろす。
「今、何時?」
知っているが、今起きたフリをせねば。
抱きつかれていることもスルーしながら、俺が自然と体を起こせば、響もまたその場にちょこんと座った。
スマホで時間を確認すれば十三時半になっていた。
「響、昼飯食って帰る?」
「ご迷惑じゃなければ」
「んじゃ、おりるか」
ようやく、俺たちは一日の活動をし始めた。
久々に友人とオールして、誰かと一緒にいることの楽しさを思い出した反面、響の知らない一面を垣間見て、俺の胸はざわついた。



