メールに添付された動画ファイルがひとりでに再生された瞬間、脳内にけたたましい警告音が鳴った。
『絶対に目を逸らしてはいけない。最後まで見届けなくてはならない』
その文言がこびりついて離れない。身動きも取れなかった。耳元で何かが「見て……よく見て……」と繰り返し囁いてくる。
――ヴヴッ。
そして、絶え間なく振動しては画面が光っている常田實のスマートフォンが、ずっと視界の端にちらついていた。
再生が終わると同時に、目に見えない拘束力が解かれて俺は思わず膝から崩れ落ちる。なんとか視線を巡らせると、花守室長や清水君は膝に手をつき、肩で息をしている状態だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「皆、無事か?」
「なんか、もしょもしょ……聞こえ、ましたよね」
額に浮かんだ汗を拭っていると、立ち上がった時雨君がドカドカとこちらへやって来る。
「あーもう、ほんと最悪。……僕、すぐ行かないとなんで。皆は休んでいてください」
時雨君は、人差し指と中指で全員の眉間、両肩、うなじの4か所にテンポよく触れていく。すると、不思議とものすごく息がしやすくなった。
「絶対に開けないでくださいね。俺に何かあったときは、兄貴を呼んでもらえれば」
「おい、大丈夫なのか? あっ、おい時雨!」
制止する間もなく時雨君はメインルームを出て行った。立ち入り厳禁の、交信用に使っている別室へ向かったのだという。
「と、とりあえず座りましょうか」
「急に動けなくなって驚いたぜ」
どうにかテーブルまで辿り着くと、椅子の背もたれに全体重を預ける。
「あれが結婚式というか、契約書にあった伴侶の儀式、なんでしょうか……。凄まじい映像でしたね」
「えっ」
テーブルに突っ伏したばかりの清水君が勢いよく起き上がる。口にしたらまずかっただろうかと控えめに見返すと、花守室長も目を見開いてこちらを見ていた。
「土井さん、あの動画に何が映っているのか見えていたんですか?」
「俺にゃ、真っ黒な画面がただ映っているだけのようにしか見えんかったぞ……」
「え?」
今度は俺が驚く番だった。
「僕も少しだけ第六感みたいなものがあって。それでも、全部がピンボケしたみたいにぼやーっと、白い靄のなかで影が動いているなぁ、くらいにしか」
自分が見た内容を話すと、ふたりの顔がみるみる青ざめていった。
「エグすぎません? それ……」
「結婚した時点で完全アウトって、そういうことだったのか」
あの濃い霧に包まれた川の向こう側へ行ってしまったら帰ってこられないだろうということは、映像を見てしまった後となっては嫌というほどに理解できた。
「いや、内容もですけど。土井さんの精度がエグいって話ですよ! なんでそんな鬼蔦の紋が~とか、儀式の用語みたいなのとか細かい描写まですらすら言えるんですか!」
「え、あ……。どうして、だろう」
ただ、“そう”だからだとしか言えなかった。花守室長は、呑気に「こりゃたまげたなぁ」と顎をさすっている。
「俺はそういうのに鈍くってなぁ」
「いいんですよ、むしろ室長はそれで」
清水君が「室長ってめちゃくちゃ鈍いかわりに防御力だけカンストしてるみたいな人なんですよ」と耳打ちしてくれた。時雨君からは、たいていの場所で使える“歩くセーブポイント”と称されているらしい。なんだそれは。
「なので、今心配なのは時雨君のほうですね。……と言っても、あちらとの交渉にぼくらの出る幕はないので、待つことしかできないですが」
俺は、時雨君が出て行った扉をただ見つめることしかできなかった。
『絶対に目を逸らしてはいけない。最後まで見届けなくてはならない』
その文言がこびりついて離れない。身動きも取れなかった。耳元で何かが「見て……よく見て……」と繰り返し囁いてくる。
――ヴヴッ。
そして、絶え間なく振動しては画面が光っている常田實のスマートフォンが、ずっと視界の端にちらついていた。
再生が終わると同時に、目に見えない拘束力が解かれて俺は思わず膝から崩れ落ちる。なんとか視線を巡らせると、花守室長や清水君は膝に手をつき、肩で息をしている状態だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「皆、無事か?」
「なんか、もしょもしょ……聞こえ、ましたよね」
額に浮かんだ汗を拭っていると、立ち上がった時雨君がドカドカとこちらへやって来る。
「あーもう、ほんと最悪。……僕、すぐ行かないとなんで。皆は休んでいてください」
時雨君は、人差し指と中指で全員の眉間、両肩、うなじの4か所にテンポよく触れていく。すると、不思議とものすごく息がしやすくなった。
「絶対に開けないでくださいね。俺に何かあったときは、兄貴を呼んでもらえれば」
「おい、大丈夫なのか? あっ、おい時雨!」
制止する間もなく時雨君はメインルームを出て行った。立ち入り厳禁の、交信用に使っている別室へ向かったのだという。
「と、とりあえず座りましょうか」
「急に動けなくなって驚いたぜ」
どうにかテーブルまで辿り着くと、椅子の背もたれに全体重を預ける。
「あれが結婚式というか、契約書にあった伴侶の儀式、なんでしょうか……。凄まじい映像でしたね」
「えっ」
テーブルに突っ伏したばかりの清水君が勢いよく起き上がる。口にしたらまずかっただろうかと控えめに見返すと、花守室長も目を見開いてこちらを見ていた。
「土井さん、あの動画に何が映っているのか見えていたんですか?」
「俺にゃ、真っ黒な画面がただ映っているだけのようにしか見えんかったぞ……」
「え?」
今度は俺が驚く番だった。
「僕も少しだけ第六感みたいなものがあって。それでも、全部がピンボケしたみたいにぼやーっと、白い靄のなかで影が動いているなぁ、くらいにしか」
自分が見た内容を話すと、ふたりの顔がみるみる青ざめていった。
「エグすぎません? それ……」
「結婚した時点で完全アウトって、そういうことだったのか」
あの濃い霧に包まれた川の向こう側へ行ってしまったら帰ってこられないだろうということは、映像を見てしまった後となっては嫌というほどに理解できた。
「いや、内容もですけど。土井さんの精度がエグいって話ですよ! なんでそんな鬼蔦の紋が~とか、儀式の用語みたいなのとか細かい描写まですらすら言えるんですか!」
「え、あ……。どうして、だろう」
ただ、“そう”だからだとしか言えなかった。花守室長は、呑気に「こりゃたまげたなぁ」と顎をさすっている。
「俺はそういうのに鈍くってなぁ」
「いいんですよ、むしろ室長はそれで」
清水君が「室長ってめちゃくちゃ鈍いかわりに防御力だけカンストしてるみたいな人なんですよ」と耳打ちしてくれた。時雨君からは、たいていの場所で使える“歩くセーブポイント”と称されているらしい。なんだそれは。
「なので、今心配なのは時雨君のほうですね。……と言っても、あちらとの交渉にぼくらの出る幕はないので、待つことしかできないですが」
俺は、時雨君が出て行った扉をただ見つめることしかできなかった。
