誓詞~健やかなるときも病めるときも~

▼ひとりでに再生された、添付ファイル【逾槫燕蠑.mp4】の映像内容

 テロップ:~参進の儀~

 雅楽が流れるなか、花嫁行列が玉砂利を踏みしめ進む厳かな映像が映しだされる。
 大勢の黒い影の後に、白地に鬼蔦(おにづた)の紋付羽織袴を纏った新郎、黒引き振袖に角隠しをした新婦が続いて行く。

 深い霧に包まれた川のほとりにある大きな祭壇石の前へ辿り着くと、影は祭壇前に並び立つ新郎新婦を少し離れた位置から取り囲み、静止した。
 どこからともなく和太鼓の激しい音が鳴り響く。

 テロップ:~誓詞(せいし)奏上~

 新郎が懐から折り畳まれた和紙を取り出す。前に進み出ると背筋を伸ばし視線を上げて、大きく口を開いた。

 ――掛けまくも畏き(かしこき)底根國(そこつねのくに)御座(おは)します八百万神(やおよろずのかみ)に申さく。

 常田實と(かど)ふみ恵と夫婦の(ちぎり)を結び固むるは尊き神慮に依れることと喜びまつり、今より(のち)千代に八千代に相睦び相親しみ、仮初(かりそめ)にも夫婦の道に(たが)うことなく苦楽を共にし終生変わることなし。

 願わくは幾久しく守り導き(たま)え。(ここ)に謹みて誓詞を奉る。――夫、門實。

 ――(つま)、ふみ恵。

 読み上げた和紙を祭壇石の上に広げたまま置くと、脇から黒い影が小刀とふたつの盃を盆に乗せて運んで来た。
 新郎が小刀で左薬指の爪の下に傷を付け、滴る血を親指に擦りつけて血判を押す。

 すると、自然発火した青い炎が和紙をのみ込んでいった。影は、炎が消えたあとの灰燼(かいじん)を懐紙に乗せると、盃へと流し入れた。

 テロップ:~神水起請(しんすいきしょう)の儀~

 再び和太鼓の音が激しく鳴り響く。
 新郎新婦は手元に寄越された盃の酒を半分ほど飲み干すと、続いて互いの盃を交換し、残りの酒を飲み干した。

 テロップ:~指輪交換~

 盃を乗せた盆を持つ影と入れ替わるように、別の影が指輪を乗せた盆を持って現れた。新郎が、新婦の薬指に煌めくダイヤモンドの指輪をはめる。

 新婦が懐紙を取り出し中を開くと、そこには切り取られたひと房の髪の毛が入っていた。そこからひとつまみ取り出し、新郎の薬指へぐるぐると巻き付けていく。決してほどけないように、それは結び切りのかたちで縛りつけられた。

 テロップ:~入れ墨の儀~

 脇から、また別の盆を持った影がふたつ現れる。
 新郎は、地面に正座をすると諸肌を脱ぎ、盆から取った白い布を口に咥えて目を閉じた。新婦が木製の柄に何本もの細い針を糸で束ねて出来た(のみ)を手に取ると、左胸の皮膚にそれを刺していく。

「うぅううううう!」

 新郎は凄まじい唸り声をあげて苦しんだが、不思議と体は固定されているかのように動かない。新婦は“ふみ恵命”と刻み付けると、流れた血を丁寧に拭き取ってから墨を塗り込んだ。

 肩で息をする新郎に、複数の影が纏わりつくようにして集まっていく。影が引くと着物は元通りになっており、ぐぐぐと見えない力によって身体が持ち上げられ、祭壇石に向かって引きずられていった。新婦も後に続く。

 テロップ~切指の儀~

 祭壇石の上に、新郎の左手が固定される。新婦は、新郎の口に新しい布を嚙ませると、左手小指目掛けてためらいなく小刀を振り下ろした。

 ――ダァン!

「ううぅぐううう! ふーっ、ふーっ、ふーっ……」

 切断された小指が祭壇の上に転がる。それもまた青い炎に包まれると、灰色の煙が空へ立ち昇り、跡形もなく消失した。

「實さん。よく頑張りましたね」

 新婦が愛おしそうに新郎の頬をひと撫ですると、額に口づけを落とした。

 テロップ:~旅立ちの挨拶~

 ――カーン、カーン……。

 川の向こうから、鐘の音が聞こえる。霧の向こうから無人の舟が姿を現すと、ほとりにある舟着き場で停止した。その舟に、新郎新婦がゆっくりと乗り込んでいく。

「皆さん、お蔭様で旅立ちの準備が整いました。祝ってくださり、本当にありがとうございます」

 ふたりが振り返って礼を述べると、黒い影の大群が舟の前に群がった。新郎新婦が笑顔で手を振る。

「行ってきます。さようなら」

舟は再び動き出すと、ゆっくりと霧の向こうへ消えていった。