誓詞~健やかなるときも病めるときも~

▼音声ファイル【1113_1954.mp3】


「……もしもし。實、聞こえるか?」

「もしもし。うん、聞こえてる。録音ボタンもちゃんと押した」

「おっけ。えーっと現在の時刻が……19時54分。日付は、11月13日。今の状況は?」

「とりあえず知らんふりして、今は駅前の通りに出たとこ」

「ついて来てそう?」

「……分かんない。怖くて後ろ向けない。まだ人通りあるけど、来てたらまじでどうしよう。このまま帰ってもいいのかな……」

「たしかに家まで突撃されたら怖いよな……」

「とりあえず足は止めない方がいいよね。近くのコンビニとかに入ったらいいんだろうか」

「良さそうな気もするけど、もしずっと待ち伏せされたら意味ないよな。ずっとそこにいるわけにもいかないし……。あ、そういやそこの駅すぐ近くに交番あったろ」

「あ、たしかあったはず。でも、門前払いされない?」

「俺もこういうことは初めてだから何とも言えんが……。仮にもし後を付けていたとして、交番に入るところを見たら流石に退散すると思うんだよな」

「たしかに」

「どのみちこの先のことを考えたら、ストーカー対策について教えてもらいたいんだけどっていうのでも立ち寄る理由としては十分だろ」

「今後何かあったときに相談歴があれば、次の対応をしてもらいやすくなるか……」

「そうそう。――あ、結実も来たからこっちスピーカーにしてもいいか?」

「うん、もちろん」

「――實くん、大丈夫?」

「ごめんね結実ちゃん。こんな時間に」

「いいのいいの、こっちのことは気にしないで!」

「つうか、仕事終わりを狙って来るとか怖すぎだろ。こんなド平日にってことは、わざわざ休むかなんかしてまで来たってことだろ?」

「……言われて気付いたんだけど、今日って木曜だよね。医療事務をしてるから、たぶん勤務先のクリニックが午後休診の日なんだよ」

「あー、まじか」

「見間違いってこともないと思うんだ。がっつり目が合っちゃったし、何より向こうが持ってた茶色のバッグとウサギのチャーム、どっちも前に僕がプレゼントしたやつだと思う」

「え、まって。實くんいま茶色のバッグにウサギのチャームって言った?」

「う、うん。白地で首に水色のリボンを付けたウサギのやつ」

「ちょっと涼くん、見てこれ……」

「うわっ」

「えっ、何? てかもうちょいで交番着くよ」

「動向分かるかなと思って美香のインステ見てみたの。そしたらストーリーがアップされていて、今言ってた白いうさぎのチャーム付きバッグが映ってる……。投稿時間は2時間前ってなってるけど……」

「結実それすぐスクショして! てか、少なくともそれだけの間待ってたってことになるよな」

「いま画像そっちに送るからね!」

(スマホのバイブ音)

「あ、来た。ちょっと見てみるね。」

(衣擦れの音)

「……さっき目が合った人もこの格好してたよ。見覚えのあるコートだし、間違いないっぽい……」

「これ、証拠にはならないのかなぁ。なんか床も駅のタイルっぽいしさ」

「ちょっと……もうほんと怖すぎるんだけど」

(早くなる足音)

「はぁ、はぁ……着いた! 夜分にすみません、あのっ……」

「どうされましたか?」

「あの、最近別れた元カノが今さっき駅で待ち伏せしてたっぽくて。直接話しかけてくるとかはなかったんですけど、後をつけられていたらと思うと……。家も知られてしまっているので、直帰するのも危ないかもしれないと悩んだ末にこちらへ……」

「そうでしたか。そのかたの特徴は分かりますか?」

「あ、えっとはい。これ――今しがた事情を知る共通の友人が相手のSNSにアップされていたスクショを送ってくれたんですけど。まさにこのままの格好でいました」

「ここに“待ち合わせ中。着いて待ってる”と書いてありますけど、他の誰かと本当にたまたま待ち合わせしていた可能性は?」

「この辺は元カノの家からは遠く、僕の家の最寄りなんです。普段うちへ来るときしかまず利用していなかったので……」

「なるほど。ちょっとそれらしい人物がいないか外の通りを見てきますので、ひとまずこちらの椅子にかけてお待ちください」

「あっ、はい。恐れ入ります」

(椅子の軋む音)

「……ふぅ。もしもし、今の聞いてた?」

「うん」

「聞こえてたよ」

「交番に人がいてくれてまじで良かったぁ……結実ちゃんの送ってくれたスクショのおかげで話聞いてもらえそう。本当にありがとう。とりあえず事情を説明してみるから、一旦電話切るね」

「了解。何かあればすぐ言ってくれな」

「まじでもう、ほんっとにありがとう……! 電話の相手をしてもらえていなかったら、歩いてる最中もどうにかなりそうだったよ」

「實くん……。あんまりひとりで抱え込まないでね」

「後でどういう運びになったのか教えてくれよ?」

「それはもちろん。ありがとう――あ、戻って来た。じゃ、また後で」