「う……うう……」
「――さん。實さん! 實さん!」
頬をぺちぺちと叩かれる感覚に、意識が一気に覚醒する。耳にテレビコマーシャルの音が流れ込んできた。
「はっ!」
「あ、起きた。ちょっと、本当に大丈夫? またうなされてたよ」
視界いっぱいに、心配そうな顔でのぞき込むふみ恵が映る。よかった、無事目を覚ますことに成功したみたいだ。
「あ……。あ、そうだ! ゆう君の様子を見に行かないとっ」
「ゆう君? ゆう君なら今頃ひとみさんと商店街のお肉屋さんまで買い出しに行ってると思うけど……なんで?」
「……え?」
ほら、とふみ恵はスマホの画面を僕に見せてきた。
ひとみさんとのMINEトーク画面が表示されており、ほんの少し前に『悠とお肉買いに行ってくるね♪ 買い忘れたものとかあったら寄ってくるから言って〜』というメッセージが入っている。
「そっか、バーベキューのお肉……」
ふみ恵がこくりと頷く。
そうだ、今日は結婚式の前祝いに両隣の皆に大家さんも呼んでバーベキューをする日なんだった。ひとみさんとゆう君はお肉担当だ。
「せっかくの祝い事なんだからパーッと景気よくやりましょ。良いお肉を用意するから楽しみにしていてね」
ひとみさんにそう言われていたことを思い出した。
さっき買い物に出たということは、ゆう君はひと足先に目覚めたということなのだろう。後で夢のことを覚えているのかを隙を見て聞けないかな、と思った。
時計を見ると針は午後4時を指していて、そろそろ準備をしないといけない時間だ。
「ほら寝坊助さん。皆が来る前にグリルの準備をしないと」
「ごめん。そうだった、そうだった」
――ピンポン。
ちょうど立ち上がったところに玄関のチャイムが鳴った。モニターを見てみると、ニッカリと満面の笑みを浮かべたしょうやがアップで写っている。
「よっ! 準備手伝いに来たぞ!」
「来たよん」
しょうやの後ろから、しづかさんがひょっこりと顔を出した。慌てて解錠ボタンを押してふたりを出迎えると「ほれ、お菓子も色々持ってきたぜ!」と、しょうやが両手に持ったはち切れそうな買い物袋を掲げてみせる。
「まあ! たくさんありがとう!」
後からやって来たふみ恵が、その様子を見て嬉しそうに笑った。
「ありがとう。ゲストに手伝わせちゃって悪いな、準備が出来たら呼んだのに」
「何水臭いこと言ってんだよ。今日はお前らのお祝いなんだから、ちったぁ手伝わせろって。なぁ?」
「そうだよ、遠慮しないで。こういうのは皆で準備したほうが早く終わるし、思い出になって楽しいじゃん」
こういうさっぱりした性格をしているところが、すごく好感の持てるカップルだ。本当にお似合いのふたりだと思う。
改めてお礼を言ってふたりを家の中へ招くと、ふみ恵としづかさんはキッチンで野菜の下ごしらえ、僕としょうやでグリルの炭やテーブルの設置などを役割分担しながら準備を進めた。
「クーラーボックスはこの辺に置けばいいか」
「そうだね。……よし、それじゃあとはメインのお肉待ちかな」
ふう、と額の汗を拭う。
「ひとみさんたち、あと5分くらいで着くって。先に始めていてねって言ってるけど」
通知音が鳴り、スマホを取り出したふみ恵が皆に向けて言った。
「それじゃ今のうちに僕が大家さんを呼んでくるよ。そうすれば、ちょうど皆で乾杯できるんじゃない?」
「いいの? ありがとう。飲み物を用意して待ってるからね」
「うん、行ってきます」
大家さんは、僕らが住むテラスハウスのすぐ裏手の通りに居を構えている。バーベキューの準備をした庭から通りの方へと抜け出ればすぐだった。
家の前に着き、田處の表札の下にあるインターホンを鳴らすと、少ししてからグレイヘアのひょろりとした男性とふくよかな女性が顔をだした。
「實くん! 今日はありがとうねぇ。とても楽しみにしていたのよ。ね、おとうさん」
「あぁ、そうだね。私たちも声をかけてもらえるなんて本当に嬉しいよ」
田處夫婦はすぐ近くに住んでいることもあってか、何かとテラスハウスの皆のことを気にかけてくれるとても良い大家さんだ。いつもにこにこと朗らかに応対してくれる。
「いえいえ、こちらの方がいつもお世話になりっぱなしで! 今ちょうど準備ができたところなので、よろしければ参りましょう」
庭まで大家さんを連れて戻ると、まだひとみさんとゆう君は来ていないようだった。
「あ、きたきた! 大家さんこっち!」
「やぁ、皆。今日はお招きいただきどうもありがとう」
「飲み物何します?」
皆が和気あいあいと飲み物をコップに注いでいる間、ふみ恵にひとみさんたちのことを聞こうと近づくと、ちょうどスマホの通知音が鳴ったところだった。
「今うちの前に着いたって! ちょっと出迎えてくるね!」
「分かった。ありがとう」
ふみ恵が家の横から表に回る。若林カップルの到着を告げると、皆もナイスタイミングだと喜んだ。ふたりは飲み物何がいいのかな、なんて考えながらコップに氷を入れていく。
――ズルズル、ズルルルッ。
どこからか、何か重たいものを引きずるような物音が聞こえて顔を上げた。
「――さん。實さん! 實さん!」
頬をぺちぺちと叩かれる感覚に、意識が一気に覚醒する。耳にテレビコマーシャルの音が流れ込んできた。
「はっ!」
「あ、起きた。ちょっと、本当に大丈夫? またうなされてたよ」
視界いっぱいに、心配そうな顔でのぞき込むふみ恵が映る。よかった、無事目を覚ますことに成功したみたいだ。
「あ……。あ、そうだ! ゆう君の様子を見に行かないとっ」
「ゆう君? ゆう君なら今頃ひとみさんと商店街のお肉屋さんまで買い出しに行ってると思うけど……なんで?」
「……え?」
ほら、とふみ恵はスマホの画面を僕に見せてきた。
ひとみさんとのMINEトーク画面が表示されており、ほんの少し前に『悠とお肉買いに行ってくるね♪ 買い忘れたものとかあったら寄ってくるから言って〜』というメッセージが入っている。
「そっか、バーベキューのお肉……」
ふみ恵がこくりと頷く。
そうだ、今日は結婚式の前祝いに両隣の皆に大家さんも呼んでバーベキューをする日なんだった。ひとみさんとゆう君はお肉担当だ。
「せっかくの祝い事なんだからパーッと景気よくやりましょ。良いお肉を用意するから楽しみにしていてね」
ひとみさんにそう言われていたことを思い出した。
さっき買い物に出たということは、ゆう君はひと足先に目覚めたということなのだろう。後で夢のことを覚えているのかを隙を見て聞けないかな、と思った。
時計を見ると針は午後4時を指していて、そろそろ準備をしないといけない時間だ。
「ほら寝坊助さん。皆が来る前にグリルの準備をしないと」
「ごめん。そうだった、そうだった」
――ピンポン。
ちょうど立ち上がったところに玄関のチャイムが鳴った。モニターを見てみると、ニッカリと満面の笑みを浮かべたしょうやがアップで写っている。
「よっ! 準備手伝いに来たぞ!」
「来たよん」
しょうやの後ろから、しづかさんがひょっこりと顔を出した。慌てて解錠ボタンを押してふたりを出迎えると「ほれ、お菓子も色々持ってきたぜ!」と、しょうやが両手に持ったはち切れそうな買い物袋を掲げてみせる。
「まあ! たくさんありがとう!」
後からやって来たふみ恵が、その様子を見て嬉しそうに笑った。
「ありがとう。ゲストに手伝わせちゃって悪いな、準備が出来たら呼んだのに」
「何水臭いこと言ってんだよ。今日はお前らのお祝いなんだから、ちったぁ手伝わせろって。なぁ?」
「そうだよ、遠慮しないで。こういうのは皆で準備したほうが早く終わるし、思い出になって楽しいじゃん」
こういうさっぱりした性格をしているところが、すごく好感の持てるカップルだ。本当にお似合いのふたりだと思う。
改めてお礼を言ってふたりを家の中へ招くと、ふみ恵としづかさんはキッチンで野菜の下ごしらえ、僕としょうやでグリルの炭やテーブルの設置などを役割分担しながら準備を進めた。
「クーラーボックスはこの辺に置けばいいか」
「そうだね。……よし、それじゃあとはメインのお肉待ちかな」
ふう、と額の汗を拭う。
「ひとみさんたち、あと5分くらいで着くって。先に始めていてねって言ってるけど」
通知音が鳴り、スマホを取り出したふみ恵が皆に向けて言った。
「それじゃ今のうちに僕が大家さんを呼んでくるよ。そうすれば、ちょうど皆で乾杯できるんじゃない?」
「いいの? ありがとう。飲み物を用意して待ってるからね」
「うん、行ってきます」
大家さんは、僕らが住むテラスハウスのすぐ裏手の通りに居を構えている。バーベキューの準備をした庭から通りの方へと抜け出ればすぐだった。
家の前に着き、田處の表札の下にあるインターホンを鳴らすと、少ししてからグレイヘアのひょろりとした男性とふくよかな女性が顔をだした。
「實くん! 今日はありがとうねぇ。とても楽しみにしていたのよ。ね、おとうさん」
「あぁ、そうだね。私たちも声をかけてもらえるなんて本当に嬉しいよ」
田處夫婦はすぐ近くに住んでいることもあってか、何かとテラスハウスの皆のことを気にかけてくれるとても良い大家さんだ。いつもにこにこと朗らかに応対してくれる。
「いえいえ、こちらの方がいつもお世話になりっぱなしで! 今ちょうど準備ができたところなので、よろしければ参りましょう」
庭まで大家さんを連れて戻ると、まだひとみさんとゆう君は来ていないようだった。
「あ、きたきた! 大家さんこっち!」
「やぁ、皆。今日はお招きいただきどうもありがとう」
「飲み物何します?」
皆が和気あいあいと飲み物をコップに注いでいる間、ふみ恵にひとみさんたちのことを聞こうと近づくと、ちょうどスマホの通知音が鳴ったところだった。
「今うちの前に着いたって! ちょっと出迎えてくるね!」
「分かった。ありがとう」
ふみ恵が家の横から表に回る。若林カップルの到着を告げると、皆もナイスタイミングだと喜んだ。ふたりは飲み物何がいいのかな、なんて考えながらコップに氷を入れていく。
――ズルズル、ズルルルッ。
どこからか、何か重たいものを引きずるような物音が聞こえて顔を上げた。
