▼音声ファイル【0328_1729.mp3】
長く唸るように鳴り響くサイレンの音。人々のさざめきが交じる。
「――ねぇ、皆してどこに向かっているの? 公開処刑って、一体何が……」
「やだ實さんったら、おとぼけさんね。今日はあなたも主役のひとりなのに」
「仕方ないですよ、ひとみさん。實さんは今回が初めてなんだから」
「お前、初めての観覧でいきなり特等席ゲットするとか強運すぎるだろ!」
「いや、何かまだよく分ってないし、そんなに嬉しくないんだけど……」
「はあ? もったいねえこと言うなよな!」
「しょうやはね、實くんと友人兼功労者ってことで自分も前を陣取れるからテンション上がっちゃってんのよ」
「しづかだって本当は嬉しいくせに」
「はいはい、イチャつくのは後にしてちょうだいね」
「ほら、實さん見て。あそこのいつもお散歩している広い公園があるでしょう? 噴水の前に、警察の方々が特設の会場を用意してくださっているのよ」
「特設会場……?」
「そう。普段は御報せの放送があってから早い者勝ちだから、皆ごった返して大変なの」
「でも今回は私たち皆、被害者と通報者の当事者だから最前列で観る権利があるのよ」
「だからこうしてまったり歩いていても大丈夫ってわけ」
「ほら見ろよ! 今からあそこまで行くんだぞ――おまわりさーん、實が着きました!」
サイレンの音と人のさざめきのなかに、だんだんと金属が擦れるような音と絶叫が交じって聞こえてくる。
「――、――! ……けて、助けてええっ!」
「おお、すごい活きがいいなぁ」
「――ああぁああああ! 嫌だあぁああ出してえ! 出してよおおぉおお!」
「ひいいっ!」
「實さん、怖いよね心配だよね。でも、もう大丈夫だからね」
「門ふみ恵さんと實さん、通報にご協力くださった皆さんですね」
「はい、そうです。こうして素晴らしい場を用意してくださり、本当にありがとうございます」
「いえいえ、頭を上げてください。これも我々の務めですから。皆さんもご協力ありがとうございました。さぁこちらの席へどうぞ」
「いよいよね」
「真正面から座って観られるなんて最高だよな」
「さ、實さん行きましょう」
「な、なに……? あのでかい壺みたいなものは何? 今から一体、何が――」
サイレンの音がぴたりと止む。
『皆さん、静粛に願います』
辺りが静けさに包まれ、火種の弾ける音と湯の煮えたぎるような音だけが響く。
『これより、荻原美香の公開処刑を始める』
「いやぁああああ! みのるううう助けて! 助けてよおおぉおお!」
「……っうう」
「大丈夫。もうすぐだから大丈夫よ、實さん」
『伴侶でない異性を誘惑した罪、他者の伴侶を誘惑し手籠めにしようとした罪――』
「やってないいい! 私やってないいい!」
(方々から野次が飛ぶ)
『……盗み、そして邪淫という過ちまで犯しながら虚偽の発言まで重ねるとは。甚だ遺憾である。荻原美香を釜茹での刑に処す』
大きな歓声が上がる。
『罪人をここに』
重々しい金属音と鎖のようなものが擦れる音。野次と悲鳴が入り乱れる。
「ふみ恵ちゃん、ちょうどお着物の準備しなくちゃでしょう。職人さんにこれの膠を使って金彩を施してもらったら良いんじゃない?」
「まあ、ひとみさん。とっても良いアイデアですけど……私、ふたりだけの世界にあの人が混じるのは嫌なの」
「うふふ、可愛らしい。それもそうね、なら綺麗にいただいてしまいましょ」
『当該被害者である門ふみ恵殿のご厚意により、煮込みは皆の者に振る舞うこととする。感謝するように』
大歓声があがる。
「わお、ふみ恵ちゃん太っ腹ぁ!」
「……ふみ恵。ふみ恵」
「なあに、實さん」
「ど、どういうこと……釜茹でって……」
「良かったね、實くん! やっと不安から解放されるじゃん」
『湯を飲ませた後、鼎に入れよ』
「絶対にいやあああ! 覚めてっ、覚めてよおお! なんで感覚があるのおおお! おかしいおかしいこんなのおかしい違ううう!」
「中までしっかりと火を通すのは、煮込み料理の基本よね」
「わ、でた。料理上手ひとみ先生のワンポイントアドバイス」
「うふふ。冷めたら煮凝りにするのもよさそう」
「でもこの感じだと残らないんじゃねぇかなぁ……」
「うっ。ぼ、僕ちょっと気分が……あ、あっちで休んでくる……」
椅子から立ち上がる音。
「いやっ、いやあ、近づけないで熱い! 實っ! 行かないでっ、お願い助けてよおおお!」
「えっ、實くん顔が真っ青だけど大丈夫?」
「きっとあの耳障りな声のせいで怯えてしまっているのよ……さっさと飲んでくれないかしら」
「早く戻ってこないと、お前の分まで無くなっちまうぞー?」
「ちょっと……ちょっとほんと、ごめん。風に当たって休んでくる!」
走り抜ける音。
「はぁっ、はぁっ……な、なんなんだ、何が起こってるんだ……!」
長く唸るように鳴り響くサイレンの音。人々のさざめきが交じる。
「――ねぇ、皆してどこに向かっているの? 公開処刑って、一体何が……」
「やだ實さんったら、おとぼけさんね。今日はあなたも主役のひとりなのに」
「仕方ないですよ、ひとみさん。實さんは今回が初めてなんだから」
「お前、初めての観覧でいきなり特等席ゲットするとか強運すぎるだろ!」
「いや、何かまだよく分ってないし、そんなに嬉しくないんだけど……」
「はあ? もったいねえこと言うなよな!」
「しょうやはね、實くんと友人兼功労者ってことで自分も前を陣取れるからテンション上がっちゃってんのよ」
「しづかだって本当は嬉しいくせに」
「はいはい、イチャつくのは後にしてちょうだいね」
「ほら、實さん見て。あそこのいつもお散歩している広い公園があるでしょう? 噴水の前に、警察の方々が特設の会場を用意してくださっているのよ」
「特設会場……?」
「そう。普段は御報せの放送があってから早い者勝ちだから、皆ごった返して大変なの」
「でも今回は私たち皆、被害者と通報者の当事者だから最前列で観る権利があるのよ」
「だからこうしてまったり歩いていても大丈夫ってわけ」
「ほら見ろよ! 今からあそこまで行くんだぞ――おまわりさーん、實が着きました!」
サイレンの音と人のさざめきのなかに、だんだんと金属が擦れるような音と絶叫が交じって聞こえてくる。
「――、――! ……けて、助けてええっ!」
「おお、すごい活きがいいなぁ」
「――ああぁああああ! 嫌だあぁああ出してえ! 出してよおおぉおお!」
「ひいいっ!」
「實さん、怖いよね心配だよね。でも、もう大丈夫だからね」
「門ふみ恵さんと實さん、通報にご協力くださった皆さんですね」
「はい、そうです。こうして素晴らしい場を用意してくださり、本当にありがとうございます」
「いえいえ、頭を上げてください。これも我々の務めですから。皆さんもご協力ありがとうございました。さぁこちらの席へどうぞ」
「いよいよね」
「真正面から座って観られるなんて最高だよな」
「さ、實さん行きましょう」
「な、なに……? あのでかい壺みたいなものは何? 今から一体、何が――」
サイレンの音がぴたりと止む。
『皆さん、静粛に願います』
辺りが静けさに包まれ、火種の弾ける音と湯の煮えたぎるような音だけが響く。
『これより、荻原美香の公開処刑を始める』
「いやぁああああ! みのるううう助けて! 助けてよおおぉおお!」
「……っうう」
「大丈夫。もうすぐだから大丈夫よ、實さん」
『伴侶でない異性を誘惑した罪、他者の伴侶を誘惑し手籠めにしようとした罪――』
「やってないいい! 私やってないいい!」
(方々から野次が飛ぶ)
『……盗み、そして邪淫という過ちまで犯しながら虚偽の発言まで重ねるとは。甚だ遺憾である。荻原美香を釜茹での刑に処す』
大きな歓声が上がる。
『罪人をここに』
重々しい金属音と鎖のようなものが擦れる音。野次と悲鳴が入り乱れる。
「ふみ恵ちゃん、ちょうどお着物の準備しなくちゃでしょう。職人さんにこれの膠を使って金彩を施してもらったら良いんじゃない?」
「まあ、ひとみさん。とっても良いアイデアですけど……私、ふたりだけの世界にあの人が混じるのは嫌なの」
「うふふ、可愛らしい。それもそうね、なら綺麗にいただいてしまいましょ」
『当該被害者である門ふみ恵殿のご厚意により、煮込みは皆の者に振る舞うこととする。感謝するように』
大歓声があがる。
「わお、ふみ恵ちゃん太っ腹ぁ!」
「……ふみ恵。ふみ恵」
「なあに、實さん」
「ど、どういうこと……釜茹でって……」
「良かったね、實くん! やっと不安から解放されるじゃん」
『湯を飲ませた後、鼎に入れよ』
「絶対にいやあああ! 覚めてっ、覚めてよおお! なんで感覚があるのおおお! おかしいおかしいこんなのおかしい違ううう!」
「中までしっかりと火を通すのは、煮込み料理の基本よね」
「わ、でた。料理上手ひとみ先生のワンポイントアドバイス」
「うふふ。冷めたら煮凝りにするのもよさそう」
「でもこの感じだと残らないんじゃねぇかなぁ……」
「うっ。ぼ、僕ちょっと気分が……あ、あっちで休んでくる……」
椅子から立ち上がる音。
「いやっ、いやあ、近づけないで熱い! 實っ! 行かないでっ、お願い助けてよおおお!」
「えっ、實くん顔が真っ青だけど大丈夫?」
「きっとあの耳障りな声のせいで怯えてしまっているのよ……さっさと飲んでくれないかしら」
「早く戻ってこないと、お前の分まで無くなっちまうぞー?」
「ちょっと……ちょっとほんと、ごめん。風に当たって休んでくる!」
走り抜ける音。
「はぁっ、はぁっ……な、なんなんだ、何が起こってるんだ……!」
