最後の手紙書き終わっった後、私達は楽しいクリスマスに冬休み、そして年越しを迎えた。1年生の最後の学期がついに始まった。
温暖化のせいか、寒くなる日がめっきり減ってきたと大人たちが話していたある日、その日は珍しく寒波がきていて、朝早くには氷が張っていたほどの寒い日だった。
猪田先生が相手の学校からの返事の手紙を持って教室に入ってくる。恒例になったこの情景も今日で終わりだ。そう思うと、なんだか急に寂しくなってしまう。
「お前たちが1年文通をした手紙も、今日で終わりだ。相手から返事を預かってるから、また名前を呼ばれたら取りに来て欲しい。」
そう言って、先生が次々に名前を呼んでいく中、私の順番はなかなか来ない。カゴの中の手紙がみるみる減っていって、最後の一つになっても、私は名前を呼ばれなかった。何かの手違いか、他のクラスに紛れてしまったのかもしれないと思って、先生に伝えようとすると、先生がわざわざ私の前に来て、すまなそうに言った。
「小鳥遊の相手の子なんだけどな、ちょっと事情があって今回の手紙の提出に間に合わなかったんだ。ごめんな。あとで書いてもらうかどうかって話もあったんだけど、先生たちも色々忙しくて仲介してやれそうにないから、小鳥遊の場合はこの前の手紙が最後って事になるけど、いいかな?」
「あ、はい、大丈夫です。」
いいも悪いも、ほのかちゃんの事情に対して私がわがままを言うことはできないし、それに先生は知らないかもしれないけど、ほのかちゃんは私の住所を知っている。事情がどんなものがわからないけど、その事情が終われば、必ず返事をくれるような気がしていた。
しかし、私のそんな期待も虚しく、1月が終わっても、2月が終わってもほのかちゃんからの手紙がうちに届くことはなかった。初めは期待していた私も、だんだんと独りよがりだったのかな。ほのかちゃんは私と文通をするつもりはなかったんだと諦めの気持ちが大きくなってくきて、そのうち郵便受けを期待して覗き込むこともすっかりなくなってしまっていた。
3月が過ぎ、4月になって中学2年生になったある日、私の元に一通の手紙が届いた。
ピンクの無地の封筒に「小鳥遊 咲」様と書かれたそれは、いつものほのかちゃんの字とは違って、少し角張っているように見えたけど、きっとほのかちゃんからの手紙だと疑うことはしなかった。
私は郵便受けにたくさん入っていた、たくさんのチラシやダイレクトメールの中からその手紙を見つけると、慌てて自分の部屋の中に入り机の前に座ると、はやる気持ちを抑えて、開封した。
小鳥遊 咲 様
初めまして。相田ほのかです。こうゆう風に書くと疑問に思われるかもしれませんが、実は私が咲さんに手紙を書くのは初めてです。今までの手紙は全て双子の妹の「まどか」が書いていました。嘘をついていたみたいでごめんなさい。このまま知らないままでいてもらった方がいいのか、それとも本当のことを話した方がいいのかどうか迷ったんですが、でも「まどか」と楽しそうに文通している咲さんの手紙を見て、やっぱり咲さんにはきちんと知っておいて欲しいと思って、手紙を書きました。
まどかは小学生の時に難病が見つかって、最近はずっと自宅で療養をしていました。行くはずだった中学校にも行けず、眺める景色は窓の景色がほとんど。友達とLINEすることはあっても、外に遊びには行けない生活を送っていました。そんなまどかは、私たち家族や、お見舞いに来る友達の前では明るくしてたけど、なんだか寂しそうだなっていつも私は思ってました。そんな時、学校の授業で文通をする事になって、手紙自体は授業中に書かなくてもいいし、提出するまでの時間も十分あったので、まどかが息抜きをするきっかけになればいいかなって思って、「私の代わりに文通をしてほしい」とまどかに持ちかけました。まどかは、初めは「自分が嫌だからって、人に押し付けないでよ。」と困った顔をしていましたが、書き出すととても楽しかったのか、手紙を交換することを次第に楽しみにするようになりました。まどかはいつも言っていたんです。「手紙の中なら私は健康な人になれる」って。私は、まどかが書いた返事を毎回読んでいましたが、その内容は私の話からまどかがイメージした中学生活であり、こんなふうに生きたいという願いでした。嘘ばかり書いていたことを、咲さんは、嫌に思うかもしれませんが、まどかが元気な自分として、ほのかとして振る舞うにはそうするしかなかったんです。なので、嘘をついたのは私のせいです。ごめんなさい。
ワクワクしながら自分の書く内容を考え、ほのかさんからの手紙を楽しみに待つまどかは、久しぶりに見る楽しそうな姿でした。
でも、12月が入った頃にかかったコロナが悪化して、帰らぬ人となってしまいました。なので、あんなに返事を書くことを楽しみにしていたのに、最後の返事が書けなかったんです。そればかりか、咲さんの最後の手紙を読むことすらなく、旅立ってしまいました。私は、まどかが続けた嘘を嘘のまま終わらせた方が良かったのではないかと悩みましたが、やはりきちんと伝えておくべきだと思い、今回手紙を書かせていただきました。自分の気持ちや後悔に向き合う時間が必要だったため、お手紙を書くのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
あと、せっかく住所を書いていただきましたが、まどかを「ほのか」としておいてあげるためにも、この手紙を最後に、文通は終わらせていただきたいと思います。なので、私の住所は書きません。もしできるなら、手紙の中のまどかを忘れないでいてあげてください。今までありがとうございました。
相田 ほのか
私は、封筒の裏を見て、そこにほのかちゃんの家の住所が書かれていないことを確認すると、本当にこれで終わってしまったんだと、呆然とした気持ちになった。
まさか、嘘でしょう?なんていう気持ちよりも、何が何だかわからなくて、どうゆうこと?と、頭の中でハテナしか浮かんで来ない。私が手紙を書いていたのは本物のほのかちゃんじゃないと言うこと?本当はまどかちゃんで、病気にかかっていたの?
そう思って、ファイリングしてあった今まで貰ったほのかちゃん…いや、まどかちゃんからの手紙を見返すと、元気なびのびとした字が時折震えていたり、弱々しい字が一字あったかと思えば、次の文字はまるで別の日に書いたかのように元気を取り戻していたり、今まで全く気づかなかったけれど、何かが字に表れている箇所が少しだけあった。
字が震えてたりしたところは、もしかして体調が悪くなったタイミングなんだろうか。私は、そんなこともつゆ知らず、呑気に夏休みや学校の楽しいことを書き綴っていたんだ。相手も私と全く同じ生活をしていることを疑ってもいなかった。だから、そちらの学校ではどうですか?なんて書いたりして…事実を知らなかったとはいえ、学校に行けない人に対して、なんと残酷なことをしていたのだろう。本当にまどかちゃんは喜んでくれていたのだろうか。学校へ行けない自分と、学校へ行き、友達と遊び、楽しい事ばかりを書き綴る私。自分と比べて、まどかちゃんは嫉妬したりしなかったのかな。本当に、この文通を楽しんでくれていたのだろうか。聞きたくても聞ける相手はもうこの世にはいない。 後悔や罪悪感といった同じような事ばかり頭の中でグルグル回っていて、答えが見つけられない。
私は、知らず知らずのうちに、手紙をぐしゃぐしゃに握りしめて、涙を流していた。手紙では、まどかちゃんは喜んでくれていたと書いていたので、それが本当なら私は悪くないのかもしれない。でも、私は無責任な自分がどうしても許せなかった。
どうすることもできないまま、私は何もすることができず、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。いつの間にか、ママが仕事から帰ってきていたのか、いい匂いが漂ってくる。その時、不意にグゥとお腹がなった。
こんな時でもお腹が減るのかと、そんな自分がより一層嫌になる。その時、モモちゃんとした昼間のやり取りを不意に思い出した。私と同じように、無意識に誰かを傷つけてしまったかもしれないモモちゃんは、それでも自分にできることを探して立ち上がった。私も、こんな風に悲しみに打ちひしがれるんじゃなくて、何かできることを探したほうがいいんじゃないか。でも、まどかちゃんを助けたくても、まどかちゃんはもういない。
また、自己嫌悪に陥りそうになったけど、私はみっちゃんとモモちゃんという心強い友達がいることを思い出した。二人はきっとこの私の話を聞いてくれるし、何か力を貸してくれるはず。三人よれば文殊の知恵という言葉があるじゃないか。そう思い直せた時、私はスマホを手にとってメッセージを送った。
相談があるんだけど、明日の昼休み、中庭で一緒にお弁当食べよう
すぐに既読がつくと同時に、いいねマークが押される。素早く返事をしてくれることに私は安心して、スマホを置くと勢いよく席を立った。下でママが「ご飯ですよ〜」と声を張り上げていた。
温暖化のせいか、寒くなる日がめっきり減ってきたと大人たちが話していたある日、その日は珍しく寒波がきていて、朝早くには氷が張っていたほどの寒い日だった。
猪田先生が相手の学校からの返事の手紙を持って教室に入ってくる。恒例になったこの情景も今日で終わりだ。そう思うと、なんだか急に寂しくなってしまう。
「お前たちが1年文通をした手紙も、今日で終わりだ。相手から返事を預かってるから、また名前を呼ばれたら取りに来て欲しい。」
そう言って、先生が次々に名前を呼んでいく中、私の順番はなかなか来ない。カゴの中の手紙がみるみる減っていって、最後の一つになっても、私は名前を呼ばれなかった。何かの手違いか、他のクラスに紛れてしまったのかもしれないと思って、先生に伝えようとすると、先生がわざわざ私の前に来て、すまなそうに言った。
「小鳥遊の相手の子なんだけどな、ちょっと事情があって今回の手紙の提出に間に合わなかったんだ。ごめんな。あとで書いてもらうかどうかって話もあったんだけど、先生たちも色々忙しくて仲介してやれそうにないから、小鳥遊の場合はこの前の手紙が最後って事になるけど、いいかな?」
「あ、はい、大丈夫です。」
いいも悪いも、ほのかちゃんの事情に対して私がわがままを言うことはできないし、それに先生は知らないかもしれないけど、ほのかちゃんは私の住所を知っている。事情がどんなものがわからないけど、その事情が終われば、必ず返事をくれるような気がしていた。
しかし、私のそんな期待も虚しく、1月が終わっても、2月が終わってもほのかちゃんからの手紙がうちに届くことはなかった。初めは期待していた私も、だんだんと独りよがりだったのかな。ほのかちゃんは私と文通をするつもりはなかったんだと諦めの気持ちが大きくなってくきて、そのうち郵便受けを期待して覗き込むこともすっかりなくなってしまっていた。
3月が過ぎ、4月になって中学2年生になったある日、私の元に一通の手紙が届いた。
ピンクの無地の封筒に「小鳥遊 咲」様と書かれたそれは、いつものほのかちゃんの字とは違って、少し角張っているように見えたけど、きっとほのかちゃんからの手紙だと疑うことはしなかった。
私は郵便受けにたくさん入っていた、たくさんのチラシやダイレクトメールの中からその手紙を見つけると、慌てて自分の部屋の中に入り机の前に座ると、はやる気持ちを抑えて、開封した。
小鳥遊 咲 様
初めまして。相田ほのかです。こうゆう風に書くと疑問に思われるかもしれませんが、実は私が咲さんに手紙を書くのは初めてです。今までの手紙は全て双子の妹の「まどか」が書いていました。嘘をついていたみたいでごめんなさい。このまま知らないままでいてもらった方がいいのか、それとも本当のことを話した方がいいのかどうか迷ったんですが、でも「まどか」と楽しそうに文通している咲さんの手紙を見て、やっぱり咲さんにはきちんと知っておいて欲しいと思って、手紙を書きました。
まどかは小学生の時に難病が見つかって、最近はずっと自宅で療養をしていました。行くはずだった中学校にも行けず、眺める景色は窓の景色がほとんど。友達とLINEすることはあっても、外に遊びには行けない生活を送っていました。そんなまどかは、私たち家族や、お見舞いに来る友達の前では明るくしてたけど、なんだか寂しそうだなっていつも私は思ってました。そんな時、学校の授業で文通をする事になって、手紙自体は授業中に書かなくてもいいし、提出するまでの時間も十分あったので、まどかが息抜きをするきっかけになればいいかなって思って、「私の代わりに文通をしてほしい」とまどかに持ちかけました。まどかは、初めは「自分が嫌だからって、人に押し付けないでよ。」と困った顔をしていましたが、書き出すととても楽しかったのか、手紙を交換することを次第に楽しみにするようになりました。まどかはいつも言っていたんです。「手紙の中なら私は健康な人になれる」って。私は、まどかが書いた返事を毎回読んでいましたが、その内容は私の話からまどかがイメージした中学生活であり、こんなふうに生きたいという願いでした。嘘ばかり書いていたことを、咲さんは、嫌に思うかもしれませんが、まどかが元気な自分として、ほのかとして振る舞うにはそうするしかなかったんです。なので、嘘をついたのは私のせいです。ごめんなさい。
ワクワクしながら自分の書く内容を考え、ほのかさんからの手紙を楽しみに待つまどかは、久しぶりに見る楽しそうな姿でした。
でも、12月が入った頃にかかったコロナが悪化して、帰らぬ人となってしまいました。なので、あんなに返事を書くことを楽しみにしていたのに、最後の返事が書けなかったんです。そればかりか、咲さんの最後の手紙を読むことすらなく、旅立ってしまいました。私は、まどかが続けた嘘を嘘のまま終わらせた方が良かったのではないかと悩みましたが、やはりきちんと伝えておくべきだと思い、今回手紙を書かせていただきました。自分の気持ちや後悔に向き合う時間が必要だったため、お手紙を書くのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
あと、せっかく住所を書いていただきましたが、まどかを「ほのか」としておいてあげるためにも、この手紙を最後に、文通は終わらせていただきたいと思います。なので、私の住所は書きません。もしできるなら、手紙の中のまどかを忘れないでいてあげてください。今までありがとうございました。
相田 ほのか
私は、封筒の裏を見て、そこにほのかちゃんの家の住所が書かれていないことを確認すると、本当にこれで終わってしまったんだと、呆然とした気持ちになった。
まさか、嘘でしょう?なんていう気持ちよりも、何が何だかわからなくて、どうゆうこと?と、頭の中でハテナしか浮かんで来ない。私が手紙を書いていたのは本物のほのかちゃんじゃないと言うこと?本当はまどかちゃんで、病気にかかっていたの?
そう思って、ファイリングしてあった今まで貰ったほのかちゃん…いや、まどかちゃんからの手紙を見返すと、元気なびのびとした字が時折震えていたり、弱々しい字が一字あったかと思えば、次の文字はまるで別の日に書いたかのように元気を取り戻していたり、今まで全く気づかなかったけれど、何かが字に表れている箇所が少しだけあった。
字が震えてたりしたところは、もしかして体調が悪くなったタイミングなんだろうか。私は、そんなこともつゆ知らず、呑気に夏休みや学校の楽しいことを書き綴っていたんだ。相手も私と全く同じ生活をしていることを疑ってもいなかった。だから、そちらの学校ではどうですか?なんて書いたりして…事実を知らなかったとはいえ、学校に行けない人に対して、なんと残酷なことをしていたのだろう。本当にまどかちゃんは喜んでくれていたのだろうか。学校へ行けない自分と、学校へ行き、友達と遊び、楽しい事ばかりを書き綴る私。自分と比べて、まどかちゃんは嫉妬したりしなかったのかな。本当に、この文通を楽しんでくれていたのだろうか。聞きたくても聞ける相手はもうこの世にはいない。 後悔や罪悪感といった同じような事ばかり頭の中でグルグル回っていて、答えが見つけられない。
私は、知らず知らずのうちに、手紙をぐしゃぐしゃに握りしめて、涙を流していた。手紙では、まどかちゃんは喜んでくれていたと書いていたので、それが本当なら私は悪くないのかもしれない。でも、私は無責任な自分がどうしても許せなかった。
どうすることもできないまま、私は何もすることができず、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。いつの間にか、ママが仕事から帰ってきていたのか、いい匂いが漂ってくる。その時、不意にグゥとお腹がなった。
こんな時でもお腹が減るのかと、そんな自分がより一層嫌になる。その時、モモちゃんとした昼間のやり取りを不意に思い出した。私と同じように、無意識に誰かを傷つけてしまったかもしれないモモちゃんは、それでも自分にできることを探して立ち上がった。私も、こんな風に悲しみに打ちひしがれるんじゃなくて、何かできることを探したほうがいいんじゃないか。でも、まどかちゃんを助けたくても、まどかちゃんはもういない。
また、自己嫌悪に陥りそうになったけど、私はみっちゃんとモモちゃんという心強い友達がいることを思い出した。二人はきっとこの私の話を聞いてくれるし、何か力を貸してくれるはず。三人よれば文殊の知恵という言葉があるじゃないか。そう思い直せた時、私はスマホを手にとってメッセージを送った。
相談があるんだけど、明日の昼休み、中庭で一緒にお弁当食べよう
すぐに既読がつくと同時に、いいねマークが押される。素早く返事をしてくれることに私は安心して、スマホを置くと勢いよく席を立った。下でママが「ご飯ですよ〜」と声を張り上げていた。
