Letter~手紙がつなぐもの〜

返事が2週間以上先なんてドキドキするなんて言いながら、先生に手紙を出した後は、そんなことなんてすっかり忘れて、日常を送っていた。
 それは他のみんなも同じだったようで、授業が終わってすぐは、みんなで「何書いた?」とか、「誰に届くんだろう?」とか話題に登っていたけど、それもすぐになくなって、次の日にはYou Tubeやテレビの話とかばっかりになった。なので、私の周りで自分の書いた手紙がどう思われただろうか?とか、どんな返事が返ってくるだろうか?とか、をずっと気にしている人なんていなかったと思う。授業に部活に、友達と遊ぶことだって、中学生は何かと忙しい。
 
 手紙を書いてから2週間が過ぎ、3週間が過ぎ、そろそろ4週間が経とうとした、とある特活の時間に、猪田先生が「返事きたぞ〜」と手紙が入ったカゴを持って教室に入ってきた。現金なもので途端に、ドキドキする。誰が返事を書いてくれたんだろう。私が書いた手紙は変に思われなかったかな?
「さて、みんなお待ちかねの返事が返ってきたぞ!」
 そう先生が声をかけると、教室がざわつき始める。
「俺、可愛い女の子からの返事を期待!」
「趣味が合う子だといいなぁ。」
「どんな子だろう?」
 みっちゃんも、意味ありげに私の方を見てきたので、私はコクリとうなづき返した。
「さ〜今から宛名を読むから、呼ばれた奴は取りに来い。自分であだ名をつけた奴は間違えるなよ。じゃあ、赤羽、ゆうじ、さっちゃん…」
 名前が次々に呼ばれて、順にみんなが受け取っていく。受け取った子からは早速いろんな反応が。
「ねぇ、これって男子かな?字汚いんですけど。読めないかも!ヤダァ…」
「うぉ!鈴木葵って女子?めっちゃ可愛い字じゃん!」
「お前まじで?葵だけなら男もいるけど…確かに字は女っぽいよな。俺は普通に男だよ。颯太だって。ちょっと期待してたのに…。」
「え、あんた女子と文通しようって期待してたの?まじキモいんですけど。」
 受け取った人たちの間でおじゃべりが広がっていって、ざわざわが止まらない。みんな封筒に書かれた差出人の名前や文字の感じから色々想像して話している。
 初めて知った。顔が見えないと、文字だけでいろんなことを想像するんだ。
 大人みたいな字だったら、大人っぽい子なんだと思うし、雑に書いてあると、この授業嫌だったのかな?めっちゃ書かされた感じだよねとか思う。いつもLINEでやり取りしてると、誰がメッセージを送っても、みんな機械で表示された同じ字だけど、こうやって手書きのものを見ると、それだけで色々な想像ができてしまう。文字から受ける印象なんて、そんなに気にもしてなかったけど、この間私が書いた文字ってどうゆう受け取られ方をしなんだろう。特別下手ってことはないと思うから、全然読めないなんてことはないだろう。でも、男っぽいとは思われたかもしれない。おばあちゃんが書道の先生をしている影響もあるのか、大きくはっきりと、伸び伸び書く癖がついているから。
 今までは、たかが手紙だって思ってた。LINEと何が違うのか分からないし、書くのにも届けるのにも時間がかかるから、その分時間の無駄だなって思ってた。でも、実は楽しいのかもしれない。文字一つで想像が膨らむせいか、思ってた以上にクラスのみんながワクワクして手紙を受け取っているのがわかる。
 そんなことを思ってると、「小鳥遊」って呼ばれた。
 緊張が最高潮だ。テストが帰って来る時にもこんなに緊張しないかもしれない。ドキドキして猪田先生の前にいくと、白地に桜の花がポイントとして入っている封筒を渡された。
 宛名のところには『小鳥遊 咲 様」ってきちんと書いてある。字は、一生懸命丁寧に書こうとしたことが伝わってくる、可愛い字だった。
 受け取ってすぐに裏返すと、「相田 ほのか」と書いてある。
 女の子だ。どんな女の子かな?字がかわいいから、小さくて可愛い子かもしれない。便箋だって爽やかで大人びてるから、服だってオシャレな子かもしれない。
 まだ手紙を受け取っただけで、中身を読んでいないのに、もうそんな想像が止まらない。
 全員に手紙が行き渡ったところで、猪田先生が「開封して中身を見てもいいぞ。返事は、今書いてもいいし、家で書いてもいいぞ。今から10分間は手紙を読んだり、返事を書いたりするのに使ってくれ。それでだ、今度手紙を持っていくのは、お前らの人生初めての中間テストが終わった後になる。まぁ、テストには集中して欲しいから、手紙自体は来週末までに書いて先生に渡してくれ。」
 猪田先生の話しが終わると、ドキドキしながら封筒の端をハサミで切って開封した。
 中から出てきた便箋は封筒と同じ白字に桜の花がワンポイントとして入っているものだったが、よくよく見ると便箋には凹凸が付いていて、それがレースのような模様になっていた。
 なんだが大人っぽくて、とても素敵。目の前にとても優雅でとてもオシャレな女の子が現れたような気がした。文通するというちょっと古風なこの授業が、クラスメイトにも今までの知り合いにもいない、初めてのタイプの子に出会わせてくれたという事実に、私は感謝したくなった。
 私は、一度目を閉じて、先生達ありがとうと心で感謝してから文面に目を通す。

小鳥遊 咲 さま
 
 初めまして。お手紙ありがとう。私は相田ほのかっていいます。小鳥遊さんみたいにオシャレな名前じゃなくて恥ずかしいです。
とても素敵なお名前ですね。小鳥遊 咲って、花が咲き乱れる野原を小鳥たちが楽しそうに空を舞っているみたい。
 私は部活には入っていません。正直なところ迷っていて、吹奏楽部がいいかなって思ってたけど、仲のいい友達がバスケ部に入るっていうから…。でも、私は運動が苦手だから、バスケは絶対嫌だなって。でも、一人で吹奏楽部に入る勇気もなくて…。そうしているうちに、入る期間が過ぎちゃって。今からでも入れるって聞いたけど、なんだかついていけないんじゃないかって思うと、心配で。
 自分のことばっかり書いてすいません。手紙って、何をどう書けばいいのかよく分からないくて。うちの担任は、自分のことをしっかり書けばいいのよって言ってたけど、相手の反応もわかんないから、自分のことしか書けないよね。でも、流石に自分のことばかり話しすぎ?次は小鳥遊さんのことももっと知りたいな。苦手な科目とかある?私は、英語が苦手。小学校の時はまだ楽しかったけど、中学にはいいて、文法とか意味不明で。あ、また私の話ばっかりしちゃった。
 なんかいっぱい書いてごめんね、気づいたら敬語でもなくなってたし。
 学校の授業とはいえ、小鳥遊さんとお手紙交換できて嬉しいな。お返事待ってます。

                              相田 ほのか より

 元がおしゃべりな子なのか、手紙上級者なのか、私からするとびっくりするぐらいの長い文の手紙が入っていた。読み応えのある長い手紙に嬉しくなる反面、これに返事を書くなんてできるのかなぁと不安になる。こんなに長い文章を書いてくれる子なんだから、私の返事が短かったらきっと失望してしまうに違いない。正直上手く書けるのか不安だったけれど、私だって書いてくれたことに対して丁寧に返事をすれば長文を書けるかもと、無理矢理思い込むことにした。だって、私の返事を受け取ったほのかちゃんにも、私が今受けているような喜びを感じてもらいたい。そんなやる気を密かにみなぎらせていると、みっちゃんがツンツンと私の腕をつっついきた。
「ね、見て」
 そっと差し出してきたのは、みっちゃんがもらった手紙だ。便箋自体は特にキャラクターも柄も何もあしらわれていない、罫線だけの白い便箋だが、そこには几帳面な字で、簡単な自己紹介が書いてあった。男の子からの手紙だったけれど、その字はびっくりするほどスマートで、爽やかな印象だ。無地の便箋がその大人っぽさを際立たせている。
 みっちゃんも同じような印象を持ったらしく、少し訝しげに聞いてきた。
「これって…人数合わせに、先生が生徒のふりをして書いてるってことないよね?」
「まさかぁ…」
 すぐさま否定したけど、みっちゃんが疑ってしまうのもわかるぐらいの達筆。
「じゃぁ、本当に中学生なのかなぁ…だとしたら、すごい上手だよね。」
よくみると、みっちゃんのの目はハートになっている。まさに乙女の目だ。
 「なんかさぁ、こうゆう大人っぽい字が書ける人ってカッコ良さそうじゃない?うちらのクラスの子供っぽい男子と違うって言うかさぁ。そして、なんか真面目で優しそう。」
 確かに、クラスの男の子達の中には字が上手い子がいない。丁寧さがないっていうか、ノートを取る時だっていつも雑にぐちゃぐちゃって書いてる。誰もがみんな自分が読めればいいだろうっていうスタンスだし、私も文字を書く本人が困らないなら特に問題ないよなって思ってた。でも、字が綺麗と言うことは、大きなアドバンテージになることもあるようだ。だって、どんな相手かもわからないのに、字だけでみっちゃんは恋に落ちたみたいだったから。まさに一目惚れ。いや、一字惚れ?こんなこともあるなんて、文通恐るべし。

 その夜のことだった。
 ピコン
 LINEの受信を告げる音がする。見ていたドラマから目を離してスマホを見ると、みっちゃんと、もう一人の友達であるモモちゃんとで作ったグループLINEにメッセージが入っていた。モモちゃんは小学校の頃からの仲良し3人組の一人で、今は2組で、一人だけクラスが違ってしまったんだ。
「ねぇ、次の土曜日か日曜日に一緒にレターセットを買いに行かない?」
 飼い猫のモカのアイコンはみっちゃんだ。みっちゃんは猫が大好きで、モカの写真をよくインスタにあげたりしているし、モカの可愛い写真が撮れたらすぐにアイコンを変える。今のアイコンは、モカが猫じゃらしにじゃれついている写真だった。
 メッセージを受信すると、すぐにモモちゃんからイイよのスタンプが返された。モモちゃんのアイコンは料理が大好きっていうモモちゃんらしさを表すように、自分で作ったカップケーキ。ケーキの上にクリームで飾りがつけられてるんだけど、それが花びらみたいになっていて、プロ顔負けの芸術作品みたい。部活も料理部に入っていて、それ以外にも毎週火曜日はお菓子作りを教えてもらいに、駅前のカルチャースクールに通っている。頻繁に料理をしているだけあって、モモちゃんの料理の腕はメキメキ上がっていて、アイコンのお菓子の見た目がどんどん派手になっていってるし、たまに差し入れでもらうお菓子はそこら辺のスーパーで買うよりも断然美味しかった。一方私のアイコンといえば、今は桜の花。中学の入学式の直前に近所の公園で撮ったやつだ。名前が「咲」っていうのもあって、私はよくアイコンを花にする。家の庭や公園、出かけた先で綺麗な花を撮っておいて、季節ごとにアイコンを変える。ゴールデンウィークも終わったし、そろそろ季節は初夏だ。桜の季節は終わりだから、そろそろアイコンを変えなければいけないと思った。庭にママが植えていたチューリップが綺麗に花を咲かせている。次のアイコンはチューリップもいいかもしれない。明日、庭で写真を撮って早速変えよう。
 LINE上で私たちが、私たちらしさを表すものはアイコンでしかない。吹き出しで表せる文字はみっちゃんもモモちゃんも同じで、字からは誰が誰かわからない。だから、アイコンを工夫することで、自分がどんな人か相手に伝えようとしている。お気に入りの場所、好きな芸能人、自分で描いたイラストや似顔絵…。一方で手紙にはその人らしさを表すアイコンなんてない。けれど、アイコンの代わりに、文字がその人らしさを表している気がする。そう、みっちゃんが今日相手の男の子の事を字から想像したように。
 次々に送られてくるLINEをボ〜ッと眺めながら、そんな取り止めもないことを考えていたら、モモちゃんから「咲、どうしたの?」とメッセージが送られてきた。その後に、可愛いウサギが首を傾げて、「どうしたの?」と言っているスタンプも。
 LINEでは既読かどうかがすぐわかる。だから、既読がついたのに何もメッセージやスタンプを返してこないことに、二人が不思議に思ったようだ。いつもと同じやりとりなのに、今日はそのことが少しだけ面倒に感じた。手紙なら、ゆっくりと自分の気持ちを考えて、それを感じたりまとめたりする余裕がある。だって、自分のタイミングで書けばいいだけだから。でも、LINEは「周りに合わせないと」「私が返事しないことをみんなが不審に思うんじゃないか?」なんて気持ちが先行して、何も考えずに焦って返事をしてしまう。みんなが不快じゃないように。それに、私たちの仲良しグループではないけど、やっぱり既読無視とかがいじめの原因になったりしていることも知っている。なんだかLINEが相手の都合は無視して、自分の都合だけを押し付けてくるアイテムに思えてきた。けれど、今を生きる私たちは、LINEを中心にしか人間関係を築けないし、常識がここにあるから、それを壊すことができない。
 私は、急いでペンギンがごめんねと、謝っているスタンプをみんなに送る。
「ごめん、LINE開いたままテレビの方に集中してた。今『昨日の元カレ』見てた」
「あ、杉崎 冬夜が出てるやつでしょ?私、冬夜結構好き〜」
みっちゃんが冬夜が好きって返したことで、まだLINEが勢いよく流れる。隣に一緒にいなくても、会話しているのと同じスピードで、同じ時間を共有できることがLINEのいいところでもある。
 そういや、レターセットを買いに行くのはどうなったんだっけ?と思って、今までのLINEを遡って読み返すと、モモちゃんが送った「私、土曜日の午前中は部活なんだ。午後からならいいよ〜。日曜日はいつでもOK」というメッセージと、その後「楽しみ!」のスタンプが見つかる。それにみっちゃんが「じゃぁ日曜日の午前中に買い物して、お昼はみんなでマックにしようよ。咲ちゃんもそれでいい?」というLINE返していたのに、私が返事をしなかったから「どうしたの?」と聞かれていたらしい。話はすっかり冬夜のことになっているけど、強引に話を戻すように「日曜日の午前中に買い物だよね?OK」と送ると、イイねが2つついた。けれど話はしばらく冬夜のままで、私もそれに合わせるようにメッセージやスタンプを送った。

 日曜日、待ち合わせは駅。
 地元の文具屋さんは小さくて品揃えが悪いため、もっと大きなところで買いたいと、みっちゃんが言ったので、電車に乗って2駅先にある大型文具店へ行くことになった。10時ちょうどに待ち合わせってなっていたけど、10時5分ぐらい前に当のみっちゃんからメッセージが入った。
今流行りのアニメのキャラクターが泣いてるスタンプも一緒だ。
「ごめん。寝坊。15分ぐらい遅れる」
 もうとっくに駅に着いてた私は、「じゃぁ、駅前の本屋にいるね」と返すと「私も、本屋にいるよ。漫画のところ」とモモちゃんからも返事が。急いで中に入ると、漫画の新刊が並んでいるあたりにモモちゃんがいた。試し読みできる箇所を読んでいるようだ。
 タイムラグがなくメッセージをやり取りできるって、こういう時に便利だなってつくづく思う。もしすぐに連絡できる手段がなかったら、私とモモちゃんは待ちぼうけを喰らわされていたことになる。今の時期ならまだいいけど、これが真夏ならいつまで待てばいいかわからない状況で、熱中症の危険が高まってしまうし、真冬だって寒さに震えてしまう。この前だって、スマホが無いことでとても不便だったことがあった。いとこのお姉さんがうちに来てくれるといから駅まで迎えに行ったんだけど、スマホを忘れてしまったんだ。迎えに行くだけだし、時間かからないから、ま、いっかなんて思っていたら予想外に大変だった。たまたま、お姉さんが乗った電車が事故か何かで止まったから。私に「何時につくかわからないから、お迎えはいらないよ」ってLINEしてくれてたんだけど、私はスマホを持ってないから、メッセージを見られなかった。はじめに聞かされてた予定時刻を5分過ぎても来ないことに私はだんだん不安になってきたけど、これまたスマホがないから連絡が取れないし、状況がわからない。それに、あと5分しらた来るかもって思うと、その場から離れられないし。結局、いつまで経っても既読がつかないことにお姉さんが心配して、ママに連絡をしてくれて、ママが慌てて携帯を持って駅まで来てくれたからなんとかなったけど。スマホがない時代ってどうしていたんだろう?そのまま何時間も待つんだろうか?でも、そんなことをしてたら、体調を崩してしまうかもしれない。そして、もし絶対に来れないようなことにでもなっていたら、いったい何時間待ってから帰ればよかったんだろうか。
 
 慌てて来たのが丸わかりの、少しボサボサの髪のみっちゃんが合流すると、早速私たちは大型文具店に向かった。中途半端な時間だったせいか、電車の中は意外と空いていて、3人して横並びに座ると、控えめの声でおしゃべりを開始する。
「みっちゃんが遅れた時に思ったんだけどさぁ、もし私たちがスマホとか持ってなかったら待ち合わせに遅れる時ってどうしてたんだろうね?」
「それって、家電しかないってこと?」
「まぁ、そうなるかな?」
「遅れます!って駅の人に電話するとか?」
「まさかぁ、1日数十人ぐらいしか乗り降りしない小さい駅だったら、駅員さんが頑張って伝言してくれるかもしれないけど、大きな駅だったら無理でしょ。何人が待ち合わせしてるのよ。」
「じゃぁ、放送を掛けてくれるとか?」
「〇〇さん、お連れ様が遅れます、もう少しそのままお待ちくださいって?」
「きゃ〜もしそうだったら、恥ずかしすぎるんですけど!」
「え、呼び出された方が?寝坊した方が?」
「そりゃぁ名前呼ばれた方でしょう!」
 よく知らない時代を想像しては、3人でクスクス笑う。不意に、モモちゃんが何かを思い出したように手を打った。
「あ、そういえば、懐かしの時代を振り返る!みたいなテレビでやってたんだけど、昔は駅に掲示板があったって。」
「掲示板?」
「そうそう、黒板みたいなのがあって、そこに誰でもメッセージが書けたみたいだよ。」
「じゃぁ、トイレ行ってきます。待っててね。とか?」
「いやいや、流石にそんなメッセージは書かないでしょ。」
「じゃぁ、もう待ちくたびれました。帰ります。とか?」
「あ、ありそう〜。」
「なんか、意地悪な人とかいたら、書いたメッセージを目的の人が読む前に消しそうじゃない?」
「え〜ひどい!そんな人いたのかな?」
「それで、浮気をさせないようにしようとする人がいたりして…」
「ヒャー、それは怖いでしょ。」
「そういえばさ、そのテレビを見てた時にうちの親が言ってたんだけど、とある駅の伝言板にXYZと連絡先を記すと、殺し屋みたいな人に連絡取れるって漫画があったらしくて、一時期XYZが掲示板にいっぱい書かれてたらしよ。」
「何それ!?マジで暗殺者と連絡とっちゃったらどうするんだろうね?」
「流石にそれは漫画だろうけどね〜」
 携帯がなかった頃の話をしているうちに、気づけばあっという間に目的の駅に着いていた。話が盛り上がりすぎて、アナウンスを聞き逃していた私たちは、ドアが閉まるギリギリに飛び降りる。
「ふぅ〜危なかったぁ…ついつい、乗り過ごすところだったね。」
「だって話してるとついつい楽しいんだもんね〜」
 3人が改札を抜けると、文具屋のあるビルに足を向ける。
「モモちゃんは、特活の時の手紙、どんな子からだった?男の子?女の子?」
「えっとね、女の子だったよ。なんか、美術部だって書いてあった。」
「そうなんだ、どんな子なんだろうね?どんな子か想像した?」
「なんかね、おとなしそうな子かも。美術部ってだけで大人しい印象はあるでしょ?それに便箋も白で無地でキャラクターとかも描いてなくて。手紙の内容も学校で習ってることとか、当たり障りない感じだったし、いまいち掴みどころがないっていうかさ。正直、どう返事書いていいか迷ってるんだよね。あんまり踏み込んでくれるなって感じが文章からしてさ。相手に聞くこととかなかったら、結局自分のことを書くしかないよね。咲とみっちゃんはどんな感じの子だったの?」
「私は、女の子だったよ。文章が上手そうだった。めっちゃ長い手紙でさ。作文以外でそんなに長い文章書いたことないからびっくりした。なんか逆にプレッシャーだよぉ。なに書こうかなって悩んでる。」
「私はねぇ、男の子なんだけど、なんかすっごい大人びた字で、かっこよかったよ。」
「で、みっちゃんはその子に恋に落ちたんだよね?」
「え!?いや、いやいや…。」
「え〜私に手紙を見せてくれた時は、目がハートだったよ?」
「そ、そうかな?」
「どんなこと書いてたの?」
「み、短かったけどね、陸くんって言ってバスケ部なんだって。」
「バスケなの?じゃぁ背が高いのかな?バスケできてあんだけ字が綺麗だと、イケメンな感じがするよね。」
「え〜?そんなに字が綺麗なの?」
「そうなの、大人びてて、みっちゃんなんて、これって人数合わせに先生が書いたのかなぁなんて言ってたよね。」
「え〜見たかったなぁ。私の相手の子は字が小さくてさ、きゅって詰まった感じで書いてるんだよね。綺麗かどうかよりも、なんか自信なさそうだなって思って、それでおとなしい子かなって思ったんだ。」
「あ〜なんとなく言ってることわかる。なんか、相手がどんな子かわからない分、字でどんな子か想像しちゃうよね。」
「わかる!そうなんだよね!」
「で、みっちゃんの中では、相手の子はイケメン君になったわけだ。」
「え?違うよ、違う!…そうゆうわけじゃないけど…。」
「違うの?」
「いや、イケメンとかそうゆうんじゃないんだけど、スマートな感じがカッコイイなとは思ったよ。だから、もう少し仲良くなれたらいいなっていうか…。」
「で、なんでレターセットなの?」
「えっと、いや、好きだからって言う訳じゃないんだけど…。私をもっと知ってもらいたいなって思ったんだけど、私も文章書くのがそんなに得意でもないし…しかも、相手が男の子だよ?何書けばいいかもわかんないもん。逆に長々と自分のこと書いて、なんだこいつって思われるのも嫌だしさ。でも、少しでも私のことは知ってもらいたい気持ちがあるから、私らしいさってどうやって伝えればイイかなって思ったの。でね、みんなとLINEしてたら、みんなの「らしい」アイコンが表示されるじゃない?手紙にもそんなアイコンみたいなものがあればよかったとにって思った時に、ふと、便箋とか封筒って私のアイコンにならないかなって思ったの。私の好きな便箋と封筒でお返事書きたいなって。そしたら、手紙の中でもこの便箋を選んだ理由とか書いて、さりげなく自分をアピールできそうっていうか。ほら〜私あまり文章が得意じゃないから、せめて便箋だけも思いを乗せたいっていうかさぁ。」
 みっちゃんが真っ赤になりながら、必死に説明してくれる。必死に陸くんのために、いろんなことを考えて実行しようとしているみっちゃんが可愛い。
「そっか、それもそうだね。便箋と封筒も自分を表すものだもんね。」
 私たちはみっちゃんが言っていることに妙に納得してしまった。確かに、便箋や封筒はアイコンの代わりかもしれない。もし、私が毎回お菓子や食べ物の絵柄が入った便箋だったら、送ってくれた相手は食べ物の好きな子なのかもしれないって思うし、キャラクターの便箋をもらったら、相手の子が好きなキャラクターの便箋なんじゃないかなって思う。言葉にして伝える以外にも、自分の表し方ってあるようだ。
 授業の前に初めて便箋と封筒を買いに行ったときに、何を基準に選んでいいのかわからなくて、結局無難なものの中で自分が好きなものを選んでしまった。その時買ったものはまだ残っているけれど、今日はもう少し自分が好きなものを選んでみよう。そして、そのことを手紙で書くのもいいかもしれない。

 大型文房具店というだけあって、レターセットの種類も豊富だった。
 定番なのか季節を表す風景や、草花のものは多い。ファンシーなものやキャラクターものももちろんあるし、白だけど切り絵でレースを現したように周りが飾られているものや、無地だけどカラーバリエーションが豊富なものまで取り揃えられている。
 みっちゃんは、やっぱり自分が好きな猫の柄を見ていた。リアルなネコから可愛いもの、ブサカワまで取り揃えられている。
 私たち三人は、時間をかけてフロアの一角を占めるレターセット売り場を見て歩いた。
「ねぇ、どれにするか決めた?」
モモちゃんがみっちゃんに声をかける。
「なんかさ、私ってどうゆう人って思われたいのかなって考えてたの。可愛い女の子の方がいいのかな?大人っぽい方がいいのかな?って。でもね私のこと、気に入ってくれたら嬉しいんだけど、それが偽物の私じゃダメだなって思って、私は私だから。だから、一番私らしいものを選びたいなってさ。」
 そう言って手にしたレターセットは、猫がいっぱい描かれているものだった。
「やっぱり猫か!確かにみっちゃんらしい。」
「なんかいいね。まさに、みっちゃんのアイコンそのもの!」
 両手放しで褒める私たちに、みっちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「じゃぁ、私はやっぱりお菓子かな?」
 そう言ってモモちゃんが手にしていたレターセットを見せてくれた。それは、ドーナツやケーキなどの焼き菓子が便箋がいっぱいに描かれたもの。
「あ〜確かに、それはモモちゃんぽいね。」
「でしょ?でも、さぁ、なんかこれだと食いしん坊ぽくない?」
「そう言われたらそうかもしれないけど、お菓子といえばモモちゃんなんだから、絶対それがいいよ!」
「いや〜これ見てたら、モモちゃんのケーキ久しぶりに食べたくなるなぁ」
「えぇ?どうゆうこと?私といえばケーキなの?」
「いやぁ、そんなことないけど、料理上手なのは間違いないし!そうゆうところアピールした方がいいんじゃない?私も料理上手だったら、その便箋で料理上手をアピールしたかも!」
「私の相手女の子なんですけど。料理上手をアピールしてどうなるのよ。」
「女の子でも、話題は大切でしょ?」
「そうだけど、この便箋じゃなくてもよくない?ほら、こっちのクリームソーダがワンポイントだけのやつの方が、大人っぽくない?」
「確かに大人っぽい!でも、モモちゃんはこっち!」
「え〜?」
 二人が楽しそうに戯れあっているのを横目に、私は風景や花といった自然入ったレターセットが置いてあるコーナーに行った。
 私が好きなもの。やっぱり季節の花。でも、大人っぽいだけなのは嫌だ。押し花のような絵が描かれたレターセットがあったけど、そんなおばさんぽいのじゃない。もっと私らしく可愛いもの。その時、紫陽花と猫がポップにあしらわれたレターセットが目に入った。
 あ、これだ。
 何かに引き寄せられるように、私はそのレターセットを手に取った。私らしい便箋。だけど、ほのかちゃんも絶対気に入ってくれるはず。

 そしてその夜、私はそのレターセットを使ってほのかちゃんに返事を書いた。

 
相田 ほのか 様

 こんにちは。お返事ありがとう。しかも、オシャレな名前なんて言ってくれてありがとう。小鳥遊って書くの大変でしょう?咲でいいからね。私もほのかちゃんって書いてもいいかな?今すぐ返事がわからないから、この手紙ではほのかちゃんって書くけど、嫌なら教えてね。次の手紙から相田さんに戻すからね。
 ほのかちゃんは運動が苦手なんだね。実は私もなんだ。でも、それじゃダメだなって思って、テニス部に入ってみました。でもやっぱり一番下手で早くももう嫌になっているよ。
 あと、私は、数学が苦手。計算が大っ嫌いなんだ。
 ほのかちゃんは、好きなことってありますか?
 私は、お花とか自然が大好き。今日、友達と一緒に便箋を買いに行きました。その子が、「自分らしい便箋で手紙を書きたい。」っていうから。その子が言うには、便箋はアイコンなんだって。その話を聞いてたら、確かにそうだなって思ったの。それでね、私の好きなものが描かれてる便箋を買ってきて、今こうやってお返事を書いています。もうすぐ紫陽花の季節だね。ほのかちゃんも季節の花を感じてくれたら嬉しいな。
 なんだか、手紙書くのが下手でごめんなさい。ほのかちゃんみたいに上手に手紙が書きたいな。

                             小鳥遊 咲