真っ白なガーベラのような君へ

②材料をすべて加え、切るように混ぜる。
 
 咲結さんは三つのスプーンが一つの輪っかにまとまっているものを引き出しから取り出した。
「なにこれ」
「計量スプーンだよ。調理実習で使わなかった?」
「……覚えてない、です」
 高校生になると、一年生の時にしか履修しないからか、興味がないからなのか、僕の記憶には残っていない。
 大さじ、小さじ、小さじ二分の一。
 それぞれ十五ミリリットル、五ミリリットル、一ミリリットルだそうだ。
 よく覚えていられるな、と関心してしまう。
「まずは小さじ一ね。液体は、スプーンからこぼれない程度に、横から見たら盛り上がってるくらい入れてね」
「表面張力ってこと?」
「そうそう!」
 見よう見まねで、ボウルの中に昆布だし小さじ一と、水大さじ二を加える。
 表面張力というワードがでてきたからなのか、なんだか理科の実験をしているみたいだ。
「大さじ二分の一って、どうすればいいの?」
 レシピと咲結さんを交互に見る。
 スプーンの中には、小さじ二分の一はあるけど大さじ二分の一を計るスプーンはなかった。
「大さじ二分の一は、スプーンの高さの、大体三分の二くらいを目安に計ってくれれば大丈夫だよ」
 なんだかいきなり難しいことを言われた。
 料理の素人に目分量が難しいように、メモリのない、どこにも置けないスプーンで三分の二を計るのは至難の業のように思えた。
 チューブの醤油を少しずつ、スプーンの中に入れていく。
 はじめに大体ここら辺だろうと思ったところで止めて、咲結さんの意見を求める。
「うん、うん。いい感じだね」
 パッと見て、いい感じだと評価できる咲結さんは、やはり僕とはレベル差がありすぎるように思えた。
「次、お砂糖が小さじ一ね。粉系はすり切り一杯で計ってね。山盛りとかはだめだよ」
 すり切りというのは、スプーンで掬って、すり切りベラなどで表面を平らにした状態をいうらしい。
 なんだか幼稚園の砂遊びを思い出した。
 山盛りになっていると、型から泥砂を抜くとき、崩れやすかったような気がする。
 あんまりよく覚えていないけど。
 材料をすべて計り、入れ終えると、菜箸を手渡された。
「白身を切るように、早く混ぜるんだよ」
 そう、まるで円を描くように卵液を混ぜて見せてくれる。
 途中まで混ぜてくれていたものを、僕の前に差し出す。
 僕の番らしい。菜箸をいつもの箸のように持ち、一定方向に円を描くように混ぜる。
 たまに箸を持ち上げながら混ぜるといい、とアドバイスをもらった。
「なんで白身を切るの?」
「白身が繋がってると、色が均一な卵焼きにならないから。だからしっかり混ぜてね」
 混ぜ始めて一分ほどが経過したころ、咲結さんが次に行くと言って、僕は菜箸を置いた。