終点までバスに揺られて、住宅街のそばで降りる。
自動販売機で冷たいコーラを買って。
コンビニで肉まんを買って。
花屋で、花束を作ってもらった。
「やば、お線香買い忘れた。私、もう一回コンビニ行ってくる」
「わかった」
僕はこのまま、花屋で花束ができるのを待った。
その間に、僕はレジでお金を払った。
「これは、一時間後くらいに取りに来ます」
そう、咲結と買った花束だけを持って、店の外でコンビニから帰って来る咲結を待つ。
「コンビニにお線香、なかった」
「そっか。まあ、しょうがないよ」
たくさんの荷物を持って、僕たちは墓地に入った。
一番左奥の、まだピカピカの綺麗なお墓。
『高梨楓之墓』
そう彫られている墓石は、雨なのに、なんだか眩しかった。
「ねえ、楓くん。元気?」
汗をかいたコーラを置いて、持って来た乾いた雑巾で墓石を拭いた。
「私、もう二十三歳になったよ。今年から社会人。憧れの出版社に入ったの。今は、都会で一人暮らししてるんだよ」
返事がないのは、やっぱり寂しい。
墓石も、ここに楓が眠っているはずなのにぬくもりなんてなくて、まだ冷たい春の風に晒されて。雨に晒されて。ただただ冷たい。
「ほら、優緋くんの番」
そう、咲結は雑巾を絞って花を変え始める。
仏花ではなくて、春の花。
チューリップとか、カスミソウとか、カーネーションとか。
春の訪れを感じさせるような、色鮮やかなもの。
「ねえ、楓。僕、見つけたよ。やりたいこと。きっと、一人前の料理人になって見せるから。見ててくれよ」
あと、もう一つ。この後、僕は、咲結に伝えたいことがあるんだ。
まだ、あの問の答えは、見つけられないけど。人が人をいじめてしまう理由は許せないけど、きっと単純じゃないから。
僕は、大切な人を守れるような大人になるよ。咲結の苦しみに気付けるような、大人になる。
楓とライバルになるなんて、思ってなかったけど。楓の代わりに咲結のこと、幸せにしてあげられたらって、思ってる。
もし嫌なら、出てきてくれよ。そうしたら、あきらめてやってもいいけどさ。
でもきっと、お前は。自分に何かがあったときに僕に咲結のことを任せるために、何度も何度も、咲結のことを話してたんだよな。
「……ねえ、まだ、話してる?」
僕がずっと無言だったからか、探るように僕を見ていた。
「あ、もう、終わったよ」
「そ? じゃあ、最後に。私、楓くんと肉まんの半分ことか、したかったの。それで、未来のことを当たり前みたいに話して。勉強も、一緒にやりたかった」
そう、渋々と言うように、咲結は半分に割った肉まんを僕に押し付けた。
「ねえ、ちゃんと返信したのに見てないだろうから、言うけどさ。
私も、楓くんのこと好きだよ。大好き。同じ高校に進学して、楓くんが所属するバスケ部のマネージャーになって。かっこいい楓くんも、情けない楓くんも、見たかった。
優緋くんしか知らないなんて、ずるい。ずるいよ。好きって言って、そのまま会えないなんて。寂しいよ。
……でも、もう、ちゃんと前を向くから。
楓くんのこと、忘れない。定期的に会いに来る。
だから、見守っててね。ずっと、見てて。
約束だよ」
にこっと微笑んだ。
咲結が微笑んだ途端、降っていた雨が止んで、陽が差した。
「さて、帰ろっか。優緋くんも、今日帰るんでしょ?」
空の眩しさを見上げながら、立ち上がった。
「新幹線のチケット、指定席隣同士で取れるかな」
「長期連休じゃないから、大丈夫じゃないかな」
そんな会話をしながら、僕たちは墓地を出た。
墓地から一番近い花屋の前を通って、僕はわざとらしく「あっ!」と言って見せた。
「どうしたの?」
咲結は小さく笑いながら、僕の方を見る。
「花屋にスマホ、忘れたかも」
そんな、下手な嘘をついた。僕の手には、しっかりとスマホが握られているのに。
「え? ちょ、」
「ちょっと待ってて」
逃げるように花屋に入って、僕は花束を受け取った。
緊張しながら店を出ると、咲結はバス停の時刻表を眺めている。
「……ねえ、咲結」
「あ、忘れてないスマホ、あった……?」
そう、言葉を止めた。背に隠した花束に気付いたのか、視線が僕の目と背中の後ろのものを覗くように行き来する。
「あのさ、あの、まず、第一志望の出版社に就職、おめでとう。誕生日おめでとう」
もう気づいてるよな、と思うと、今更感があって恥ずかしいけど。作ってもらった花束を見せるように、手前に持ってくる。
伝えたい言葉を選び抜いた、春色の花束。
赤いアネモネ。
ピンクのチューリップ。
黄色いミモザ。
ピンクのガーベラ。
白いガーベラ。
オレンジのカーネーション。
ユーカリの葉。
まるで収拾がつかない、気持ちばかりを込めた花束だけど。
花屋さんのセンスによっていい感じにまとめ上げてくれていた。
「ありがとう。え、わざわざ……?」
咲結の目じりが下がる。「綺麗だ」と、声に出ていた。
その表情を見て、ほっと肩をなでおろす。
「ここからが、本題で」
「うん……」
緊張する。こんなにも、緊張するものなのか。
声が上ずりそうになるのを、深呼吸をして落ち着かせる。そして、意を決して息を吸った。
「僕、僕は、咲結のことが、好きです。
弱いところも、強いところも。楓が好きなところも。笑顔も、泣き顔も、好きです。
楓の代わりには、なれないけど。僕が前を向けたのは、咲結がいたからです。
僕の、恋人になってくれませんか?」
どくどくと、心臓が口から出てきてしまうんじゃないかというほど、激しく動いている。
まっすぐ、咲結の顔を見る。
咲結も、まっすぐ僕を見ていた。
そして、にこっと笑った。
僕が持っている花束に負けないほど、明るくて、綺麗で。眩しい笑顔で。
僕に一歩、歩み寄った。
自動販売機で冷たいコーラを買って。
コンビニで肉まんを買って。
花屋で、花束を作ってもらった。
「やば、お線香買い忘れた。私、もう一回コンビニ行ってくる」
「わかった」
僕はこのまま、花屋で花束ができるのを待った。
その間に、僕はレジでお金を払った。
「これは、一時間後くらいに取りに来ます」
そう、咲結と買った花束だけを持って、店の外でコンビニから帰って来る咲結を待つ。
「コンビニにお線香、なかった」
「そっか。まあ、しょうがないよ」
たくさんの荷物を持って、僕たちは墓地に入った。
一番左奥の、まだピカピカの綺麗なお墓。
『高梨楓之墓』
そう彫られている墓石は、雨なのに、なんだか眩しかった。
「ねえ、楓くん。元気?」
汗をかいたコーラを置いて、持って来た乾いた雑巾で墓石を拭いた。
「私、もう二十三歳になったよ。今年から社会人。憧れの出版社に入ったの。今は、都会で一人暮らししてるんだよ」
返事がないのは、やっぱり寂しい。
墓石も、ここに楓が眠っているはずなのにぬくもりなんてなくて、まだ冷たい春の風に晒されて。雨に晒されて。ただただ冷たい。
「ほら、優緋くんの番」
そう、咲結は雑巾を絞って花を変え始める。
仏花ではなくて、春の花。
チューリップとか、カスミソウとか、カーネーションとか。
春の訪れを感じさせるような、色鮮やかなもの。
「ねえ、楓。僕、見つけたよ。やりたいこと。きっと、一人前の料理人になって見せるから。見ててくれよ」
あと、もう一つ。この後、僕は、咲結に伝えたいことがあるんだ。
まだ、あの問の答えは、見つけられないけど。人が人をいじめてしまう理由は許せないけど、きっと単純じゃないから。
僕は、大切な人を守れるような大人になるよ。咲結の苦しみに気付けるような、大人になる。
楓とライバルになるなんて、思ってなかったけど。楓の代わりに咲結のこと、幸せにしてあげられたらって、思ってる。
もし嫌なら、出てきてくれよ。そうしたら、あきらめてやってもいいけどさ。
でもきっと、お前は。自分に何かがあったときに僕に咲結のことを任せるために、何度も何度も、咲結のことを話してたんだよな。
「……ねえ、まだ、話してる?」
僕がずっと無言だったからか、探るように僕を見ていた。
「あ、もう、終わったよ」
「そ? じゃあ、最後に。私、楓くんと肉まんの半分ことか、したかったの。それで、未来のことを当たり前みたいに話して。勉強も、一緒にやりたかった」
そう、渋々と言うように、咲結は半分に割った肉まんを僕に押し付けた。
「ねえ、ちゃんと返信したのに見てないだろうから、言うけどさ。
私も、楓くんのこと好きだよ。大好き。同じ高校に進学して、楓くんが所属するバスケ部のマネージャーになって。かっこいい楓くんも、情けない楓くんも、見たかった。
優緋くんしか知らないなんて、ずるい。ずるいよ。好きって言って、そのまま会えないなんて。寂しいよ。
……でも、もう、ちゃんと前を向くから。
楓くんのこと、忘れない。定期的に会いに来る。
だから、見守っててね。ずっと、見てて。
約束だよ」
にこっと微笑んだ。
咲結が微笑んだ途端、降っていた雨が止んで、陽が差した。
「さて、帰ろっか。優緋くんも、今日帰るんでしょ?」
空の眩しさを見上げながら、立ち上がった。
「新幹線のチケット、指定席隣同士で取れるかな」
「長期連休じゃないから、大丈夫じゃないかな」
そんな会話をしながら、僕たちは墓地を出た。
墓地から一番近い花屋の前を通って、僕はわざとらしく「あっ!」と言って見せた。
「どうしたの?」
咲結は小さく笑いながら、僕の方を見る。
「花屋にスマホ、忘れたかも」
そんな、下手な嘘をついた。僕の手には、しっかりとスマホが握られているのに。
「え? ちょ、」
「ちょっと待ってて」
逃げるように花屋に入って、僕は花束を受け取った。
緊張しながら店を出ると、咲結はバス停の時刻表を眺めている。
「……ねえ、咲結」
「あ、忘れてないスマホ、あった……?」
そう、言葉を止めた。背に隠した花束に気付いたのか、視線が僕の目と背中の後ろのものを覗くように行き来する。
「あのさ、あの、まず、第一志望の出版社に就職、おめでとう。誕生日おめでとう」
もう気づいてるよな、と思うと、今更感があって恥ずかしいけど。作ってもらった花束を見せるように、手前に持ってくる。
伝えたい言葉を選び抜いた、春色の花束。
赤いアネモネ。
ピンクのチューリップ。
黄色いミモザ。
ピンクのガーベラ。
白いガーベラ。
オレンジのカーネーション。
ユーカリの葉。
まるで収拾がつかない、気持ちばかりを込めた花束だけど。
花屋さんのセンスによっていい感じにまとめ上げてくれていた。
「ありがとう。え、わざわざ……?」
咲結の目じりが下がる。「綺麗だ」と、声に出ていた。
その表情を見て、ほっと肩をなでおろす。
「ここからが、本題で」
「うん……」
緊張する。こんなにも、緊張するものなのか。
声が上ずりそうになるのを、深呼吸をして落ち着かせる。そして、意を決して息を吸った。
「僕、僕は、咲結のことが、好きです。
弱いところも、強いところも。楓が好きなところも。笑顔も、泣き顔も、好きです。
楓の代わりには、なれないけど。僕が前を向けたのは、咲結がいたからです。
僕の、恋人になってくれませんか?」
どくどくと、心臓が口から出てきてしまうんじゃないかというほど、激しく動いている。
まっすぐ、咲結の顔を見る。
咲結も、まっすぐ僕を見ていた。
そして、にこっと笑った。
僕が持っている花束に負けないほど、明るくて、綺麗で。眩しい笑顔で。
僕に一歩、歩み寄った。



