冬休みが明けると同時に、咲結さんは僕の通う高校に編入してきた。
「青葉西高校から来ました。春山咲結です」
そんな当たり障りのない自己紹介のあと、彼女は僕の隣の席に座った。
同じ制服を着ていることが、新鮮で、少しくすぐったい。
「今日からは、毎日顔見ることになるね」
そう、昼休みに待ちに待ったと言わんばかりに前のめりになって、肩をすくめて笑う姿は、今までとは段違いにすっきりしている。
「教えてくれてもよかったんじゃないの?」
「だって、言わない方が面白いでしょ? 現に、今の優緋くん、面白い顔してるし」
そういって、スクールバッグの中から生徒手帳を取り出す。
新しい生徒手帳は、きっとさっきもらったばかりなのだろう。
クリアファイルから取り出した楓との写真を、大事そうに開いたすぐのところにしまっていた。
その様子を見る限り、二人は相思相愛で。楓が生きていたら、きっとお似合いのカップルになっていて、今の状況とは全く異なる時間が流れていたに違いない。
「今日から、私の人生再スタートするんだ。楓くんに胸を張って報告できる生き方をするって決めたの。まずは、夢を叶えるところから、頑張るんだ」
大事そうに写真を撫でて、写真の中で笑う楓に向かって微笑んでいた。
そんな咲結さんの、その前向きな言葉に、僕は頷いた。
「ねえ、咲結さんの夢って、なに?」
前、僕は話したけど、咲結さんのことは聞いていなかった。
「パティシエ……って、言ってたけど。本当は、四大を出て、少女マンガの編集者になりたい。楓くんしか知らなかったけど、もう、隠さない」
力強くそう宣言する姿を見て、すぐにわかった。これが、嘘偽りのない咲結さんの本当の気持ちだと。
「私にも価値があるって教えてくれたのは、楓くんだった。その気持ち、踏みにじるところだったんだね」
そう、あの日を思い出すような口調に、反応に困って、僕は黙って聞くことしかできなかった。
「両親もね、ちゃんと私のこと大事にしてくれてるんだよ。ほんとは、両親の冬の旅行はね、カフェスイーツのコンテストみたいなのに出席してたの」
「え? そうなの?」
「うん。結果が出るまで、気を遣わせないようにって優緋くんには黙ってたけど、私のせいで色々考えさせたよね。ごめんね」
それは、別にいいんだけど。
「結果は、どうだったの?」
僕が聞くと、咲結さんは苦笑いで言った。
「もちろん、ダメだったよね。ランキング圏外。でも来年に向けて、今度はもっと気合い入れるって言ってた」
「そうなんだ」
「うん。あ、優緋くん。いじめられたことは、心配かけたくなくて言ってないから、お墓まで持って行ってほしいの」
「言ってないの?」
その思いがけない事実に、驚いてしまう。
相当のことがないと、こんな短距離で編入するなんて難しいと思っていたけど、実際はそうでもないのか……?
「言ってないよ。でも、まあ、話し合う中で感づいてるかもしれないけど。二人が気付かないふりしてくれてるなら、それに甘えようと思って」
「そっか。うん、いいんじゃない? 言わないことも優しさだし。子供だから苦しいことを洗いざらい親に話さないといけないわけじゃないしね」
咲結さんは僕の意見に何度も首を縦に振った。
「あ、あと。ちゃんと、私のお給料は将来の貯金として貯めてくれてたから。そこも、無駄じゃなかったし。両親も私が家のこととか関係なくパティシエになりたいんだって思ってたから、将来のために頑張らせてくれてたみたい。ずっと、本音を隠してたから、すれ違ってただけだった」
親のために嘘をついていた咲結さんと、娘のためにと思っていた両親。
これも、愛ゆえかと思うと、生きるのは難しいけど、どこか愛おしい関係に思えた。
「それもこれも、優緋くんがお説教してくれたおかげだよ」
「お説教って……」
「ちゃんと、お説教でしょ? 感謝してる。全部すれ違ったまま、終わるところだったもん。でも、もう大丈夫。隣に見張り役もいるからね」
そう言って僕に向ける咲結さんの吹っ切れたような、未来に希望を持っているようなその笑顔が。
雨上がりの雫が輝く真っ白なガーベラのように、美しく見えたんだ。
「青葉西高校から来ました。春山咲結です」
そんな当たり障りのない自己紹介のあと、彼女は僕の隣の席に座った。
同じ制服を着ていることが、新鮮で、少しくすぐったい。
「今日からは、毎日顔見ることになるね」
そう、昼休みに待ちに待ったと言わんばかりに前のめりになって、肩をすくめて笑う姿は、今までとは段違いにすっきりしている。
「教えてくれてもよかったんじゃないの?」
「だって、言わない方が面白いでしょ? 現に、今の優緋くん、面白い顔してるし」
そういって、スクールバッグの中から生徒手帳を取り出す。
新しい生徒手帳は、きっとさっきもらったばかりなのだろう。
クリアファイルから取り出した楓との写真を、大事そうに開いたすぐのところにしまっていた。
その様子を見る限り、二人は相思相愛で。楓が生きていたら、きっとお似合いのカップルになっていて、今の状況とは全く異なる時間が流れていたに違いない。
「今日から、私の人生再スタートするんだ。楓くんに胸を張って報告できる生き方をするって決めたの。まずは、夢を叶えるところから、頑張るんだ」
大事そうに写真を撫でて、写真の中で笑う楓に向かって微笑んでいた。
そんな咲結さんの、その前向きな言葉に、僕は頷いた。
「ねえ、咲結さんの夢って、なに?」
前、僕は話したけど、咲結さんのことは聞いていなかった。
「パティシエ……って、言ってたけど。本当は、四大を出て、少女マンガの編集者になりたい。楓くんしか知らなかったけど、もう、隠さない」
力強くそう宣言する姿を見て、すぐにわかった。これが、嘘偽りのない咲結さんの本当の気持ちだと。
「私にも価値があるって教えてくれたのは、楓くんだった。その気持ち、踏みにじるところだったんだね」
そう、あの日を思い出すような口調に、反応に困って、僕は黙って聞くことしかできなかった。
「両親もね、ちゃんと私のこと大事にしてくれてるんだよ。ほんとは、両親の冬の旅行はね、カフェスイーツのコンテストみたいなのに出席してたの」
「え? そうなの?」
「うん。結果が出るまで、気を遣わせないようにって優緋くんには黙ってたけど、私のせいで色々考えさせたよね。ごめんね」
それは、別にいいんだけど。
「結果は、どうだったの?」
僕が聞くと、咲結さんは苦笑いで言った。
「もちろん、ダメだったよね。ランキング圏外。でも来年に向けて、今度はもっと気合い入れるって言ってた」
「そうなんだ」
「うん。あ、優緋くん。いじめられたことは、心配かけたくなくて言ってないから、お墓まで持って行ってほしいの」
「言ってないの?」
その思いがけない事実に、驚いてしまう。
相当のことがないと、こんな短距離で編入するなんて難しいと思っていたけど、実際はそうでもないのか……?
「言ってないよ。でも、まあ、話し合う中で感づいてるかもしれないけど。二人が気付かないふりしてくれてるなら、それに甘えようと思って」
「そっか。うん、いいんじゃない? 言わないことも優しさだし。子供だから苦しいことを洗いざらい親に話さないといけないわけじゃないしね」
咲結さんは僕の意見に何度も首を縦に振った。
「あ、あと。ちゃんと、私のお給料は将来の貯金として貯めてくれてたから。そこも、無駄じゃなかったし。両親も私が家のこととか関係なくパティシエになりたいんだって思ってたから、将来のために頑張らせてくれてたみたい。ずっと、本音を隠してたから、すれ違ってただけだった」
親のために嘘をついていた咲結さんと、娘のためにと思っていた両親。
これも、愛ゆえかと思うと、生きるのは難しいけど、どこか愛おしい関係に思えた。
「それもこれも、優緋くんがお説教してくれたおかげだよ」
「お説教って……」
「ちゃんと、お説教でしょ? 感謝してる。全部すれ違ったまま、終わるところだったもん。でも、もう大丈夫。隣に見張り役もいるからね」
そう言って僕に向ける咲結さんの吹っ切れたような、未来に希望を持っているようなその笑顔が。
雨上がりの雫が輝く真っ白なガーベラのように、美しく見えたんだ。



