真っ白なガーベラのような君へ

「なんか、料理って嫌になりそう」
 リビングで食事をしている妹に、無意識にそう、言っていた。
「は? お兄ちゃん、昨日は料理楽しいとか言ってたじゃん」
「いや、だって失敗したし。シチューって焦がす料理じゃないよね、普通」
 記憶の中の茶色くなったシチューを、きっと今頃咲結さんが食べているんだろう。そう思うと申し訳なくて、やはりこれは楓との約束である「未来を生きていく意味」を見つけたとは言えないのではないか。
 だとしたら、なんだったんだろう。僕の半年は、神様に踊らされていたようなものなのだろうか。
「あのさ、お兄ちゃん、楓とかいう人に振り回されてるよね」
「……は?」
 カチンときた。今まで、感じたことのない怒りが、心臓に毛が生えたような、どうにもできないような怒りが僕の心を支配する。
「お前、楓のこと何も知らないのに知ったように言うなよ。あいつは、楓はっ」
「きっとその人は、自分の死で落ち込んで絶望してほしくなかっただけなんじゃないの? お兄ちゃん、ちょっと人に依存するとこあるし。そういうとこわかって、前を向けるように必死に最後の最後まで考えた言葉なんじゃないの?」
 ハッとした。妹のが、僕よりずっと大人で。柔軟な考え方をしていた。
「まあ、お兄ちゃんずっと抜け殻みたいだったけど、最近いきいきしてるし。色々手出して、続かなかったり、うまくいかなかったこと考えたら、向いてるんじゃない? 失敗は成功の基っていうし。ね?」
 それ、咲結さんも言ってた。
 なんだ、そういうものか。
「もしかしたら、本当に、今頑張ってる意味? みたいなのが成果につながるかもしれないし。私は、お兄ちゃん、料理向いてると思うよ。卵焼き、おいしいし」
 そう、無邪気に空になった弁当箱を出して言った。
「ごめん、イライラして」
「いいよ、別に。私もずっと思ってたこと言えて、すっきりしたもん」
 もう少し、粘って頑張ろう。
 囚われていて見つけたことは、いつしか囚われに関係なく夢中になっていたことも事実だった。
「なあ、明日、何食べたい?」
「じゃあ、今日失敗したの、作ってよ」
「うん、ありがとう」
 僕は、きっと幸せなんだ。
 僕を理解してくれる家族がいて。
 学校生活も、別に難なく送れていて。
 バイトも、楽しくやらせてもらっている。
 咲結さんは、どうなんだろう。
 毎日、ちゃんと楽しめている瞬間はあるのだろうか。
 毎日、心から笑えているのだろうか。
 ……僕には、わからない。
 何にも苦しんでいない咲結さんの顔を知らないから。
 でも。シチューを作っていたときに思った、咲結さんを救いたいという気持ちは、心の中にこびりついて、離れない。離してはいけない。
 そんな気がして。
 シチューを、うまく作れるようになってはいけないような、そんな変なざわめきを感じて。
 きっと気のせいだと言い聞かせた。