真っ白なガーベラのような君へ

 夏になると、部活はより一層忙しさを増した。
 楓も彼女に会いに行く頻度は減っていた。彼女も忙しいと、楓は心配そうに話していた。
 僕には、まだよくわからない感覚だった。
 ただ、楓が怒りながら話していたあの問いは、未だに頭の中でリピートされている。ふとした瞬間に考えてしまうのだ。
「マジで勉強しないと」
 朝から夕方まで、全力で走らされた部活の帰り道。
 楓は真面目な顔でそう言った。
「赤点あった?」
 うちの中学は、赤点でも補修も何もない平凡な学校だ。それなのに、なぜ今、いきなりそんな話になったんだろう。
「いや、別に普通……いや、普通よりは低かったけど、それなりにだよ」
「それなら別に、問題ないんじゃないの?」
「いや、問題大ありだよ。友達が頭いいんだよ。同じ高校に行くには、今から頭よくならないと追い付けないんだよ」
 まさに、恋に生きる男だ。今までも何となくそんな感じはあったけど、この一言で本気でそう思った。
「部活と勉強して、あいつに会えるのは週に火曜日と水曜日の二回だけなんだよ。あとはたまたま時間が合ったとき。まじで、心配……」
 最近は例の僕が名前を忘れた彼女のことを隠す気もなく話すようになった。
 恋はめんどくさそうだけど、楽しそうでもあって、少し羨ましかった。
 楓は言葉通り、部活が終わったらその足で中学から少し離れたファミレスに寄り、スマホを見える場所に置いて勉強していた。
 僕も一緒になって夏休みの課題を終わらせることができて、初めて八月末に慌てることのない夏休みを手に入れていた。
 そんなことをしていたある日。
 いつも通り、部活が終わった夕方に、いつものファミレスで勉強をしていた。
 一時間くらい経ったころ。楓の電話が鳴った。
楓は、画面を見て二コールもしない間に電話を取った。
「もしもし? どうした?」
 まるで、父親が小さい愛娘に話しかけるような、愛しさの滲む声色に、僕が恥ずかしくなる。共感性羞恥、というやつだろうか。
 当の本人は、全く恥ずかしくなさそうだったけど。
「うん、今、いつもの公園の目の前のファミレスにいる。今すぐそこ、行けるから」
 その発言に、僕はファミレスの外を見る。
 確かに、そこに公園があった。ブランコと滑り台、ベンチがある小さい公園が。
「待ってて。すぐに行く」
 楓は力強くそう言って、電話を切った。
「ごめん、ちょっと出る。もし先帰るなら、これ、払っといて」
 財布から千円札を取り出して、机に置いた。
「わかった」
「よろしくな」
 そう、机の上のものを雑にカバンにしまい込んだ。ペンケースはファスナーが開いたまま、ほとんど中身がカバンの中に散らばるようにしまい込まれていた。
 バタバタと走って、横断歩道を渡り、目と鼻の先の公園に向かう楓は、公園に入る直前で女の子と鉢合わせた。
 エプロンを身に着けている女の子。
 楓はその子を見て、慌ててカバンからポーチを取り出していた。
 二人が公園に入り、女の子をベンチに座らせて、楓は地面に膝をついて彼女と向き合った。
 そこまで観察して、冷静になった。
 こんなに観察するものじゃないよな。
 ……ただ、ここにいたら気になってしまう。
 僕はもう、家に帰ることにした。