真っ白なガーベラのような君へ

 楓は、時間を気にして行動していた。
 僕たちは隣の席でよく話すこともあり、同じバスケ部に入部した。
「バスケできるの?」
「ううん。友達の読んでるマンガが、バスケ部を題材にしてて。ちょっとやってみようかなって思って」
「ふーん」
 僕はとりあえずどこかに入らないといけないから、楓と同じところに入部した。そんな生半可な気持ちだったけど、楓も似たようなものだった。
「スポーツ系のマンガとか、読んだことないな」
「読む? 俺買ったんだよ」
 部活が終わり、部室で着替え終わった楓のスクールバッグから出てきたのは、少年マンガではなく、バスケ部を題材にした少女マンガだった。
「なんか、可愛いの出てきたな」
「絵もいいけど、内容もいいんだよ。試合のシーンとか、こっちも力入っちゃってさ。主人公の女の子もなんか、あいつに似てる……し」
「え?」
「ごめん、失言。忘れて」
 少し頬を赤く染め、備え付けられた時計を見上げると、いきなり楓の顔が明るくなる。
「ごめん、俺約束あるから先に帰るわ」
 そう言ったかと思ったら、そそくさと部室を出ていった。
 そして翌日。楓はいつにも増して険しい顔をして登校してきた。
「おはよ。なんか、どうした?」
「あ、おはよう、優緋。気にしないで。ちょっと寝不足なだけだから」
「ああ、そう?」
 穏やかで爽やかな楓がイラついている姿を見るのは初めてだ。
 昨日、約束相手である恐らくよく話題に出る友人と何かあったのだろうか。
 昼休みに屋上に上がっていく楓の後を追う。
 ただの友人である僕が聞いていいのかはわからなかった。でも、少しでも楓が抱えているものから解放されたらいい。そう思った。
「楓、好きな子と喧嘩でもしたのか?」
 からかうような口調になってしまった。間違えた。やはり、慣れないことはするべきではなかった。「ごめん」と謝ろうと口を開くと、それより先に、楓の声が聞こえた。
「……なんでさ、人は人をいじめるんだろうね」
 思ったより深刻な話だった。納得できる答えを出すことができない問いだった。
 僕が回答に悩んでいると、楓は拳を握りしめて言った。
「俺さ、わかんないんだよ。なんで人をいじめるのか。なんで、人を傷つけて笑えるのか。わかんないんだよ」
 怒りを含んだ声色。その怒りの矛先は僕ではないことくらい明らかなのに、思わず身震いしてしまう。
「ごめん。困るよな、こんな話。悪いけど俺、今日部活休むから。咲結のとこ、行かないと」
 楓が、きっと無意識に出した「咲結」という名前。
 僕はその名前を、次の日にはきれいさっぱり忘れていた。