真っ白なガーベラのような君へ

 一日一善。そんなことわざを思い出していた。
 状況は、全くそれらしくない。今日も、咲結さんは転んだらしい。毎日転んでいるんじゃないか? そう思うほど、膝にも腕にもくしゃくしゃな絆創膏は増えている。
「余計なお世話かもしれないけど、ちゃんと寝てるよね?」
 レシートの補充をする咲結さんの隣で注文が入るのを待ちながら、聞かずにはいられない。調理用のぴったりとした使い捨て手袋を買ったらしく、手袋を外さない、という条件でキッチンに立っているけど。
 なんだか、夏休み中とは彼女をまとう雰囲気が違う。
「寝てるよ。なんで?」
「いや、なんか、夏休みがあけて、毎日怪我してない?」
「毎日は大げさだよ」
 咲結さんはくすくす笑いながら、注文を取りに行く。夏休みが明けて、早二週間。
 大げさではなく、僕は結構本気で、毎日怪我を増やしているように感じていた。
「はい、かしこまりました。バニラアイスですね」
 やっと治りかけた擦り傷は、昨日絆創膏が外れていたはずなのに、今日来てみるとまた、そこには真新しい絆創膏が貼られていた。
「優緋くん、バニラアイス入ったよ」
 手袋が納品されてからも、バニラアイスの役割は僕に移った。
 咲結さんが怪我をしているのを初めて見たあの日。「もう一人で大丈夫そうだね」と言ってくれたあの穏やかで優しい声が、耳に残っている。
「はい!」
 冷凍庫を開けて、昨日仕込んだバニラアイスのタッパーを開ける。
 もう中身は半分になっていた。作ったものが減っている。その喜びで、つい口元が緩む。
 アイスクリームディッシャーで一回分を掬い取り、アイス用のガラスの器に盛る。
 我ながら、毎度毎度おいしそうに見える。
「咲結さん、お願いします」
「はい、ありがとう」
 手袋を装着して、トレーの上のバニラアイスを運んでいく。
「お待たせいたしました。バニラアイスになります」
 お客様のところに持って行って、笑顔を向けて戻って来る。
 僕の目を見た咲結さんは、不意に問いかけた。
「優緋くんは、進路希望調査、なんて書くの?」
 特に深い意味はないのか、ずっと目を合わせ続けるわけではなかった。仕事をしながらの雑談に過ぎないのは、こういう状況はよくあるから何となくわかる。
「……料理人」
 ほとんど何も考えずに、僕は答えていた。答えられていた。その事実に驚いていた。
 今まで、適当に「大学進学」とだけ書いて提出していた。やりたいと感じることなんて、何もなかったから。
「ふーん。いいんじゃない?」
 どこか嬉しそうに肩をすくめて笑っている。
「いつか私だけじゃなくて、お父さんの右腕にもなってくれると嬉しいな」
 視線はこちらには向けず、トレーをアルコールで拭きながら、いつもと同じ声色で言った。
冗談、なのだろうか。社交辞令的なものなのか、どこか本気でそう思ってくれているのか。こういう会話をしたことがないから、答え方がわからない。
「よし! じゃあ早速、グラタンもマスターしてもらおうかな。明日、時間もらえる?」
 僕が頭を悩ませて無言になっている間に、咲結さんはパッと明るい顔を僕に向けた。
「わかった。楽しみにしてる」