真っ白なガーベラのような君へ

⑧一晩冷凍庫で冷やす。

密着ラップをかけて、その上からタッパーの蓋を閉める。
 そのまま、カフェで使っている大きな冷蔵庫の一番下の段の冷凍庫部分にしまい込む。
「一晩ってことは、二十四時間ってこと?」
「ううん、八時間くらいでいいよ。アイスだから、別に二十四時間冷やしても差し支えないよ」
「じゃあ、帰るころには完成してるってこと?」
 朝から出勤したら、帰るのはいつも十五時。今が九時だから……。
「今日は優緋くん、十四時までだから。食べられるのは明日かな。さあ、働くよ。お客さん入ってるからね」
 いつもより早く、と言っても一時間早く出勤しただけだけど。
 通常八時半出勤だけど、今日は七時半に出勤していた。一時間あれば、余裕だと思っていたのに。
 朝の掃除もできず、春山さん夫妻が開店準備をしているのも、後ろのコンロで料理をしているのも全然気が付かなかった。
 定刻まで働いて、帰って。今日は早く寝た。初めて作ったバニラアイスの出来が気になって、気になって仕方ない。
 そして翌日。戦隊モノのアニメを楽しみに起きる子供のように飛び起きて、服を着替えて顔を洗う。
 親が出勤前に作り置いてくれていた朝食を急いで食べて、いつもより早く家を出る。
「あ、優緋くん。おはよう。今日は早いね」
「おはよう、咲結さん。ごめん、アイスの出来が気になっちゃって」
 はやる気持ちで荷物を置いて、咲結さんが開ける冷凍庫を横からのぞき込む。
 タッパーの側面を見ると、二層にはなっていない。分離はしていないようで、とりあえずホッとする。
「はい、開けてみて」
「うん」
 受け取ったキンキンに冷え切ったタッパーの蓋を開けて、アイスにくっついたラップを剥がしとる。
アイスクリームディッシャーで掬うと、掬い取られた面は市販のアイスみたいになめらかそうな見た目に、割れた線がおいしさを物語っているように見える。
これは、期待できる。ここで出されるアイスの見た目と同じだ。
「はい、どうぞ召し上がれ」
 スプーンを受け取って、ゆっくりアイスに差し込む。
シャーベットのようなシャリシャリ感は、なし。
 掬い上げて口に運ぶ。その様子を、咲結さんはじっと眺めていた。
「どう?」
「同じ味がする。ここのバニラアイスと、同じ味、同じ食感。おいしい」
 卵焼きも、もう任せてもらえるくらい完璧になったのだ。バニラアイスも、咲結さんが休みの日に僕が作れるようになれたら。それこそ咲結さんの右腕になれるような気がした。
「一緒に、食べたかったな……」
 思わず、「え?」と声が出そうになったけど、その言葉が僕に向いていないことはすぐにわかった。初出勤のときに見たあの瞳と、なにか関係あるのかな。
 ……まあ、僕には関係ないことだけど。
 始業時間前に、咲結さんとアイスを食べながらも、会話をすることはないまま。春山さん夫妻がキッチンに入って来て、僕が作ったバニラアイスを器に移してそれを二人に渡したかと思うと、そのままホールに向かっていった。
 春山さん夫妻がおいしいとか、誉め言葉をくれたけど。そんな言葉は頭に入ってこなかった。
 いきなり、あの一言の後から元気がなくなったような気がして、関係ないと思っているはずなのに、気になっている自分がいた。