真っ白なガーベラのような君へ

①生クリームに、グラニュー糖を五グラム、アルコールを飛ばしたラム酒を加えて、八分立てまで泡立てる。

 咲結さんは冷蔵庫から生クリームを取り出して、なぜか冷凍庫を開けた。
 必要なものは全部目に見えるところに準備してあるはずなのに。
「なにか、ほかにも入れるの?」
「ううん。ただ、生クリームを立てるときは、氷水の入ったボウルに生クリームのボウルを浸けて冷やしながらやらないといけないから」
「え? そうなの?」
「そうだよー。生クリームは温度が命です」
 自信たっぷりで、料理教室の先生のような口調に、思わず頷いてしまう。頷かずにはいられない。
「勉強になります」
「うん。たくさん学んでね。まあ、実際氷水の温度が何度なのかは測ったことはないけど。とりあえず、ちゃんと氷水で冷やしながら泡立てるのが基本的なんだよ」
 氷水に浸けた生クリームの中にグラニュー糖とラム酒を加えて、泡だて器をその中に入れる。
「こんなに牛乳みたいなのに、ちゃんと生クリームになるの?」
「なるよ。とりあえず泡立ててみて」
 何となく、感覚で泡だて器をボウルの底に擦り付けるように左右に動かす。
 しゃびしゃびの生クリームが、ボウルの外に飛んでいく。
「うん、そうそう。混ぜ方も合ってるよ」
 満足そうに頷いているのを横目に見ながら、ひたすら泡だて器を動かす。
 右手が疲れてきて、一旦手を止める。緩やかに泡だて器を動かしてみると、とろみがついていた。
 少し手を休めた後また数分混ぜると、とろみが強くなり、泡だて器の跡が生クリームに残るようになってきた。
「そう言えば、八分立てってなに?」
「生クリームのかたさのことだよ。八分立ては、泡だて器で掬ったときにしっかり掬える状態のことだよ。掬ったとき、ツノが立って、先っぽがお辞儀するくらいが目安ね。混ぜすぎると、分離してぼそぼそのクリームになるから、固まってきたら状態を確認しながら混ぜてね」
 混ぜれば混ぜるほどいいわけじゃないのか。
 さすがお菓子作り。奥が深い。
「了解。気を付ける」
 言われた通りの八分立てができた、はずだ。
 泡だて器で固まった生クリームを持ち上げると、隙間がたくさんあるにも関わらず、ちゃんと付いてきて、立ったツノの先端が控えめに頭を下げる。
「おお! 完璧じゃん!」
「ほんと? よかった。生クリーム無駄にしなくて」
「失敗しても、そこから学ぶものもあるから。遠慮せず失敗していいからね」
 軽くできあがった生クリームのボウルにラップをかけて、キッチンカウンターの隅に移す。
 氷水から外そうとすると、咲結さんが僕の手を止めた。
「冷やしておかないと、生クリームダレちゃうから」
「ダレる?」
 初めて聞くワードに、思わず首をかしげてしまう。
「うん。溶けて緩くなっちゃうってこと。熱々のものに生クリーム乗せると、バターみたいに溶け出すでしょ? さっきも言ったけど、生クリームは温度が命だから」
 そうだ。最初に咲結さんが教えてくれたじゃないか。
「気を付けます」
「うん。もう一回泡立てるのもめんどくさいだろうから」
「うん。そうだよね」
 咲結さんのアドバイスに頷きながら、生クリームのボウルを氷水に浸けたまま、次の工程へと進んだ。