真っ白なガーベラのような君へ

⑦残りの卵液をすべて加え、同じように巻いてくる。

 うまくいく気がしない。
 流し込んだ残り全部の卵液を加えながら、僕の心はネガティブな思考回路に汚染されかけていた。
「最後は、混ぜないで火が通るのを待つの。一番見えるところだから」
 そう、咲結さんは落ちかかっていた袖を肘までまくり上げる。
「わかった。あれ、そのあざ……」
 さっきとは立っている位置が変わったせいだろうか。それとも気が付かなかっただけなのか。
 咲結さんの左腕の手首の内側に緑色のあざと、黄色く変色したあざが見えた。
 まともに話したのは今日が初めてなのに、まるで親しい人のようにそのあざの存在を言及しかけてしまった。「すみません」そう言おうとしたとき、咲結さんは何度か頷いた。
「……あ、これ? なんでもない」
「いや、でも」
 僕が何か言う前に、咲結さんは目線をずらした。
 朝、ゴミを捨てに出たときと同じ顔をしているように見えた。
「優緋くん、もういい感じじゃない?」
「……あ、はい……」
 咲結さんはフライパンを指差して、さっきまでと変わらない声色で早く巻くように促した。
 さっきと同じようにフライ返しを差し込む。一度やったからか、なんとかさっきよりは上手く巻いてこれたような気がする。
 でも、そこにある黄色の卵焼きの形は、やはり歪だった。
「はじめてにしては、上出来だよ」
 にこりと微笑んで、何度か頷いた。