退魔? いいえ、お話を伺うぐらいです

「くれぐれも一人で弁慶の霊を召喚するなよ」
 じーちゃんは俺にそう言い置き、派手な衣装を着て外出した。
 仲良しのお年寄りグループで、カラオケ店の大部屋を貸し切るそうだ。
 じーちゃんがカラオケに行く際は、歌うことはストレス解消になって健康にもええからなってセリフをいつも吐くのに、今日はさっきの言葉を残していった。
 頼むから、大声で力み過ぎて血管プチってやらないでね。
 電車に三十分揺られて歌いに行くんだから、ある意味、生きがいなんだろうな。
 俺の心を支えるサッカーは、中間テスト期間中のため、今日は練習がない。せっかくの土曜なのに、ちくしょー。
 机に向かい参考書を開くも、集中できない。
 クソっと悪態をつきながら俺はがばりと机上に伏す。結局こんなふうにグタグタしながら夕方を迎えようとしている。
 ふと、何もかもが馬鹿らしく感じられてきた。

 怨霊傾聴師だ? 召喚士だ?

 はっきり言って、マンガみたいな世界観だ。今日もいつものようにウソなんじゃないか疑惑がムクムクと湧いてくる。オヤジが死んだことで俺が悲しまないよう、じーちゃんが創作したホラ話の可能性を強く意識する。
 途端にむなしくなってきた。信じた自分にも、そんなことを考えたじーちゃんに対しても。そして、……橋本希美の顔が頭の中に浮かんだ。
 あんなことをマジメな顔をして問いかけてしまった。思わず頭に手をやる。いますぐ図書室で会った日に戻って、違う話でコミュニケーションをとりたい。
 だって、どう考えても、俺……アブナイやつじゃないか。
 なんだかんだ言って、橋本希美のことを意識していた。これまでずっと。
 彼女はちょっと気が強い女子だ。
 ちょっとどころじゃない、相当気が強い。周囲の波にのまれない確固たる自分を持ってる。油断なんて微塵にも見せない女子。

 だけど……。

 空想していた。ネコみたいな瞳で。
 それを尋ねた時のあいつの慌てぶりが普段の雰囲気からかけ離れていて、凄くギャップがあった。可愛かったな。クールは、なんというか見せかけなのかな。それがまた何とも言えずに、ツボだ。
 もしもあいつが俺と同じ血を継いでいたら、交渉士だったら、いいな――
 でも、いきなり俺の前から逃げていった。
 あいつに嫌われたよね。
 うわっ、それってお先真っ暗でイヤーな感じ。気が沈んでいく。どよーん、と。勉強なんてやってられない。
 ぐらぐらっと今日も家が揺れる。机の上でシャーペンが転がるほど。
 何が地震だ。大地だけじゃなくて、俺のハートの揺れを何とかしてほしい。
 この地震が「弁慶の祟りだ」なんて、屁理屈もいいところだ。
 もう勉強も嫌だ、怨霊傾聴師の話も嫌だ、橋本希美も……もう、ふて寝。現実逃避しよう。そんな自分も嫌だなあ。