退魔? いいえ、お話を伺うぐらいです

 一瞬、目を疑った。いやまさか、と思った。
 図書室に入ろうとすると、ネコみたいに黒目を細くした橋本希美がいたからだ。
 しばらくの間、声をかけずに、橋本希美を見ていた。高三になって初めて同じクラスになった彼女だが、こんな表情をしているのを見かけたことはなかった。
 ――空想世界に没入すると、その者の瞳は、まるでネコのように黒目が細くなる。そう伝わっておる。
 じーちゃんの言葉が頭をよぎった。というよりも、その言葉がぶっ刺さる。ぶすう、と。
 まさか、ひょっとして、嘘だろ。こんな身近に、……いた。
 そんな、ありえない。
 だって交渉士って、行方知れずになってもう何百年か経っている。
 それがいきなり、同じ学校にいるなんて、しかも同じクラス。
 でも、フツーじゃないことに俺は今、巻き込まれてるんだよな。そもそも、怨霊傾聴師ってフツーじゃないよな……。弁慶の怨霊を鎮めるのも……フツーじゃないよな。橋本希美が俺と同じ十八歳……は、フツーだ。ダブってないよな、留年してないよな。
 ホントの話なの?
 声をかけると、俺以上に橋本希美はうろたえた。
「な、ん、で、……そんな、とこに、い、る、の?」
 ロボットみたいな口調で聞いてきた。いつもの余裕たっぷりな空気感はなく、今はイッパイイッパイだ。それが、なんというかキュンと……いや、まさかね。冷静になれ、俺。
「学校の図書室なんだから、いてもおかしくないだろ。つうかさ、」
 俺は核心にせまる質問を投げる前に、一度、深呼吸をした。いつのまにか拳をぎゅっと握りしめていたことに気づき、ゆっくりと掌を開く。血がさーっと流れていく感覚があった。使命感っぽい熱い気持ちが血管に漲っていく。だから、俺は恐れずに尋ねた。凍りついたままの橋本希美に。

「おまえ、今、空想してた?」