退魔? いいえ、お話を伺うぐらいです

「近寄るな!」
 制止も虚しく、弁慶が手を伸ばしてくる。俺よりも(たくま)しくてがっちりしている腕が、もう目前まで迫ってきた。ちくしょう、俺だって部活で一生懸命鍛えてるのに。 
「消すぞ!」
 咄嗟にその言葉を突きつけた。同時に、手で印を切る仕草をする。
「!」
 明らかに、弁慶がひるんだ。
 この言葉は効いているようだ。実際に、消滅呪文を使うかはさておいて、怨霊にとって『消される』ことは恐怖なのだろう。結果として脅しになっていることは、申し訳ないが。
 弁慶の動きがピタリと止まった。
 めっちゃくちゃおっかない顔で、ガン見してくる。俺が消滅呪文を使う気があるのかを、見定めようとしている目だ。
 だったら、俺も弁慶に強い眼差しを向ける。怖いけど、ガン飛ばしで目をそらしたらケンカは負けだ。たぶん。ケンカしたことないからハッタリです。
「む」
 弁慶が意外そうな表情を見せた。少しだけ眉が動く。張りつめていた空気に、俺を受け入れる余裕が生まれた気がした。
 このチャンスを逃さない。俺が交渉して、弁慶の怨念を鎮まらせるんだ。祟りを起こさないように説得してみせる。
「弁慶、どうして結界を壊そうとするんだよ」
「貴様にそれがしの気持ちがわかるかぁああああっ!」
 顔を真っ赤にさせた弁慶が、再び、太い腕を俺に向けた。

 だああああ――――っ!

 交渉が秒速で決裂するって、弁慶、気が短すぎ。いや、単に、俺に交渉能力がないだけなのか……。橋本希美の顔が脳裏に浮かぶ。死ぬ前にあいつのことを想うほど、俺はあいつのことが……。最後にもう一度会いたかったな……――ああ何だろう。心が本音を叫びたいって主張してる。もう、言っちゃおう。

「橋本ぉおおおっ!!」