言いふらしたい僕らの話


 無言の朝倉に手を引かれるまま、とうとう人気(ひとけ)のない体育館裏まで来てしまった。グラウンドからの声援は聞こえるけれど、みんなの姿は確認できないくらい、離れた場所だ。
 俺は暇人だからいいとして、朝倉はこのあと、リレーが控えているっていうのに。いいんだろうか。
「ちょっと……朝倉? このあとリレーあんだろ、まずくね?」
「んー……」
 さっき朝倉は、怒ってるわけじゃない、と言ってくれたけど。
 じゃあどうして、こっちを向いてくれないんだろう。いつもみたいに、笑いかけてくれないんだろう。
「朝倉――」
「なんで馬渕と手繋いでんの?」
 やっと振り向いてくれた朝倉は、真剣な顔でまっすぐに俺を見る。
「え……? 馬渕? べつになんでもないけど」
「なんでもないのに手ぇ繋ぐんだ、末広は」
「は? そうじゃなくて!」
 不機嫌さを隠さない態度が、徐々に俺の鼓動を逸らせていく。
 朝倉のこんな一面、知らなかった。いつも明るく笑っていて、まるで太陽みたいなのに。怒ると結構怖い。
 あ、いや、怒ってないらしいけど。俺からすると、どう見ても怒っている。
「……ごめん。もう繋がない」
 どうして馬渕と手を繋いだら、朝倉が不機嫌になるんだろう。よくわからないけど。
 とにかく朝倉のこんな顔は嫌だった。早く、いつもみたいに笑ってほしかった。……なのに。
「俺と繋ぐのはあんなに嫌がったくせに」
「はぁ!?」
 どうやらまだ許してもらえないらしい。しかも嫌がった、ってなんだ。
 いつか朝倉の家から帰るときに、手首を掴まれたまま、駅の周りを何周もした。あのときのことを言ってんのか?
 朝倉は、俺の手首をより強く握ってくる。ちょっと痛いくらいに。
「嫌がってなんかない! 朝倉が恋人繋ぎとか言うから、それは違うじゃんって言っただけだろ」
 あのとき俺は、駅の周りをあと一周……いや五周したっていいと思ってた。
 今だってそうだ。じわりと痛む左手首を、離してほしいなんて思ってないの
に。
「朝倉と繋ぐほうがいいに決まってんだろ……」
 馬渕と手を繋いだって、べつになにも思わない。いいとも、悪いとも、なにもだ。
 たとえば小学生の頃の遠足とか、不可抗力の手繋ぎイベントと同じ感覚。朝倉と繋ぐのとは、全然心持ちが違う。
「……じゃあ、今、俺と恋人繋ぎしてよ」
 まるで不貞腐れたような口調で無茶ぶりされて、「え」と声が漏れる。
「こ、恋人って、なんで朝倉はその繋ぎ方にこだわるんだよ」
 だって、俺たちはその……友達、だろ?
 いや、俺みたいな陰キャぼっちが、朝倉みたいな陽の人間を馴れ馴れしく友達呼ばわりするのは、どうかと思うけど。
 けど朝倉は、俺と友達になれてよかった、と言ってくれたこともある。
「……俺たち、友達じゃないの?」
 友達同士で恋人繋ぎをするのは、お互いの未来の相手に悪いと思っただけだ。
 俺にしては割とよくできた気遣いだと思っていたんだけど。どうやら違うらしい。
 それが間違いだということは、目の前の朝倉を見ていればわかる。
「あー、もー……やだ、おまえ」
 や、だ――?
 強い拒絶の言葉。俺が言ったことはあっても、朝倉から『やだ』なんて言われたのは、初めてだった。悲しくて、悔しくて、かっと頭に血がのぼる。
「……なんで、そんなこと言うんだよ……」
 大体『やだ』なんて、こっちのセリフだ。
 朝倉は、いつも女子に連れられていく。そのたびに俺は、置いてけぼりをくらう。
 図書館でもそうだった。ほんの一瞬目を離した隙に、朝倉は()(さら)われた。
 あのとき朝倉に、なぜか好きか嫌いかって究極の二択を迫られて。俺は生まれて初めて、恐竜以外のものに『好き』って感情を抱いたんだ。
 ――俺は朝倉のこと、特別に好きなのに。
 いつも朝倉は、俺じゃなくて女子を選ぶ。
 たまには断れよ。なんでいつも、素直についていくんだよ。
 隣に俺、いるのにさ。
「……朝倉、さっきの先輩と付き合うの?」
「は? 今それ、どうでもいいだろ」
「よくねーよ!」
 全然よくない。それこそ俺と馬渕が手を繋いでいたことのほうが、よっぽどどうでもいいと思う。
「末広には、関係ないから」
 そのとき、ぷちん、と、胸の奥でなにかが切れる音がした。
「なんだよそれ! なんでそんな言い方すんだよ!」
「なんでって、べつに俺たち、ただの友達なんだろ? じゃあ関係ねーじゃん」
 知るか、そんなこと。友達なら関係ないのか? ああまあ、たしかに? 馬渕が誰と付き合おうと、興味もないけど。
 でも俺は、朝倉のことは特別に好きだから。
 関係ないなんて、言わないでほしかった。
「……こんなことになるなら、あんとき手ぇ離さなきゃよかった。先輩んとこ行かせなきゃよかった!」
「はぁ? 末広のそれ、なんなの? なんで友達のこと束縛しようとしてんだよ、おかしいだろ!」
「しらねーよ! 俺に友達なんていたことないの、朝倉が一番よくわかってんだろ!」
 手首から離れた朝倉の手が、俺の胸倉(むなぐら)を掴み上げる。反射的に俺も、朝倉の胸倉に手をやっていた。
 けどすぐに、どちらからともなく手を離す。
 なんで……なんでこんなことになってんだよ――。
「……もうごめん……やっぱ俺には無理だ。人間と近づいたのが間違いだった」
「なにイカれたモンスターみたいなこと言ってんだよ……」
 モンスターか、たしかにそうなのかもしれないな。
 人間の感情を持ち合わせていない、悲しきモンスター。そのほうが、ずっとよかった。紙の上の恐竜とだけ向き合っていたほうが、ずっとラクだった。
 それが朝倉の甘い誘いに乗っかったばかりに、こんなことになって。
 俺の心は鈍感だ。どんな言葉も、どんな態度も、まったく刺さらない。何をされても気づけば全部忘れて、恐竜を描いている。それは俺の短所でもあり、長所でもあると自負していたのに。
 朝倉のことになると、俺の心は急に、硬くて重くて、形を変えられなくなってしまう。そこから、動けなくなってしまう。忘れたいことも、全然忘れられないんだ。
「なんだよ、もう……友達なろって言い出したの、おまえのくせに……!」
 こんな気持ちを味わうくらいなら、あの日に戻ってやり直したい。
 なにがなんでも朝倉を避けて、無視して、一生陰キャぼっちとして生きていたい。こんな明るい世界を知ってしまう前に、戻りたい。
「……友達やめる、なんて言ってないだろ?」
 またこれだよ。ハルくんに言い聞かせるような口ぶりやめろ。
「言ってるようなもんじゃん、ずっと怒ってるし、やだって言うし、関係ないって言うし」
「ごめんて。もう言わない。ちゃんと末広の友達でいるから」
「ちゃんとってなんだよ、ちゃんとって……!」
 いつか朝倉が言った。哀れみとか不憫とか、そういうのいらねんだって。
 今それ、そのまんま返したい。お情けの友情なんて、いらない。
 いらないけど――朝倉と離れるのは、つらい。
「……なんで俺だけじゃだめなんだよ……」
 って、だめに決まってんだろ。バカだな、俺は。
 俺にとって朝倉は、たった一人のかけがえのない存在だけど。
 朝倉には前から、たくさんの友達がいる。そんな人気者を、俺なんかが独り占めにしていいわけない。
 それでもやっぱり俺はバカだから、願ってしまう。
 朝倉が俺だけの朝倉だったらいいのに、って。
 そしたらもう、誰にも連れていかれずに済むのに、って。
 ずっと朝倉の隣にいられるのにな、って。
「自分は俺だけじゃないくせに、ほんっとそういうとこあるよな末広」
「え?」
「馬渕といちゃついたり、杏里とべたべたしたり、なのに俺には自分だけにしろって、おかしくない?」
「別にいちゃついてなんか――!」
 そう反論しようとした瞬間。
 気づけば俺は、朝倉の腕の中にいた。
 この心臓の音、俺の? ……それとも、朝倉の?
「もう無理、ごめん、許して」
 消え入りそうな声は、心臓の音よりもずっと小さく聞こえた。
「好きなんだ、末広のこと」
「……へ?」
「好きになってごめん」
「な……なんで、謝んの……?」
 どうして朝倉が謝るのか、俺にはさっぱり理解できなかった。
 しかもさっきは『やだ』って言ったのに。今は『好き』って言う。
 もう、全然わからない。わからないけど。
「俺も好き……だよ」
 朝倉も自分と同じ気持ちでいてくれた。それが嬉しい。
 思い切ってぎゅうっと抱きつくと、さっきまでの大喧嘩が、まるでなかったことのように思えてくる。
「……水谷さんのこと、下の名前で呼ばないでほしいって思うんだ。女子の呼び出しにも行かないでほしい。俺の隣にいてほしい。朝倉が隣にいてくれないと、なんか落ち着かないんだよ俺」
 ぐらぐらしたり、ちくちくしたり、とげとげしたり。不安定で、自分でも怖くなる。
「誰にも……今まで誰にもそんなこと思わなかった。人間のことなんてどうでもよくて、一人でも全然さみしくなかった。恐竜がいればそれでよかったし、恐竜を描いてる自分だけが好きだったのに」
 そんな人間初心者に、朝倉みたいな人間はまぶしすぎたんだよな。わかるけど。もう、出会ってしまった。知ってしまった。
「今は朝倉のことばっかだよ。朝倉のことだけが好き」
 馬渕のことも水谷さんのことも、それから朝倉の家族のことも。朝倉が引き合わせてくれた人間はたくさんいるけれど。
 俺が好きだって感情を抱くのは、どう考えても朝倉しかいない。
「そうじゃねーの、俺のは」
「え?」
「俺の好きは、末広のと違う」
 朝倉の手はゆるりと背中を伝い、腰まで下りていく。ゆっくりと身体を離し、顔を見合わせた、次の瞬間。
 つん、と鼻先が触れ合う。
「俺の好きは、こういう好き」
 ハチマキを巻いてもらったあのときよりも、ずっと近い。少しでもどちらかが動いたら、うっかり唇だってくっついてしまいそうだ。……そしたらそれって……キス、になっちゃうけど。
「こういう、好き……?」
 間違いなく自分の心臓がドクドクと早鐘を打ち、とうとう膝からは力が抜けた。そんな俺を支えるように、朝倉に身体を引き寄せられる。
「友達でいてやれなくて、ごめんな」
 朝倉は眉を寄せて、困ったように微笑んだ。
 うるさかった心臓が、まるでなにかに締め上げられたように苦しくなる。
 なんで、どうして、そんな顔するんだよ――朝倉の身体は、そのままそっと離れていく。
「や、まって、朝倉っ!」
 くるりと背を向けようとした朝倉の腕を、気づけば引きとめていた。
「……ごめん朝倉」
「ん、わかってるから。末広がいいなら、これからも友達でいさせて」
 優しくほどかれた腕が切ない。朝倉に触れたい。触れていてほしい。片時も離れず、そばにいたい。どこにも行かないでほしい。
 ――こういう、好き。
 朝倉の言葉を胸の中で繰り返すと、ぎゅうっと身を丸めたくなるような苦しさが、全身を襲う。
 こういう、好き。……どういう、好き?
 さっきまで触れ合っていた鼻先が、身体中が、じわじわと熱を帯びていく。
 ……ああ。わかった。きっとこれが、馬渕が教えようとしてたことなんだ。
「……友達じゃないのは、朝倉のほうなんだ」
 気づけば俺は、朝倉の背中を抱き締めていた。大きくてたくましい、男の背中を。
「俺……朝倉と友達じゃ困る」
 そうだ。友達じゃない。友達じゃ、全然足りない。
「朝倉が好き。こ、恋人、に、なりたい……好きだ……」
 勢い余って心の内がぜんぶ声に出ていて、ぎょっとした。告白って、もうちょっとかっこよく言うもんじゃないのか。これだから俺は……。
「……まじでおまえさぁー……」
 呆れたような声と一緒に、朝倉が振り向く。
「本気で言ってんの?」
 大きな瞳が、俺を試すように見やっていた。
「本気だよ」
「恋人って、なにするか知ってる?」
「え、まあ、少しは……」
 嘘だ、大体知ってる。興味がないわけじゃない。
 あ、でも、男同士は考えてみたことがなかったから、そっちのほうは、わからないけど……。
「こういうこと、俺とすんだよ? わかってる?」
 朝倉の手が、そっと俺の手を取る。それから指を絡めて、いわゆる恋人繋ぎ、のカタチになった。
「ん……わかってるよ」
 絡めとられた指に、ぎゅっと力を入れる。
 もう二度とほどけなくてもいいって、本気で思う。
「……キスもするし、それ以上のことだって、俺はしたいわけだよ」
「なっ……なななに言ってんだよ、おまえ! 真昼間に!」
「末広」
「ん?」
「……ほんとに、本気で言ってる?」
 その視線は、いつもの意志の強さを感じさせない。疑り深く、俺の様子をうかがうような目つきだった。
「本気だってば」
 すぐに信じてもらうのは、難しいのかもしれない。
 俺だって、たった今さっき自覚した気持ちだ。でも、もうずっと前から、わからないくらい前から、俺の中にあった気持ちでもある。
 恋とも友情とも無縁だった人間初心者の俺には、この『好き』の意味なんて、わからなかったんだ。
「朝倉――」
 繋いだ手を引き寄せ、俺は思い切って朝倉の頬に口づけてみた。
 俺だって、こういう意味で朝倉のことが好きだ。――うん。大好きだ。
 ぱっと唇を離すと、朝倉は耳まで真っ赤になって、わなわなと身を震わせている。
「……おっっまえ~……!」
「あはは! 朝倉、顔真っ赤だよ」
「おまえのせいだよっ!」
 そっか。俺がほっぺにチューしたら、朝倉の顔はこんなに赤くなっちゃうのか……そっか、そっか。
 なんか、すげー熱いな。水道で顔、洗ってこようかな。
「末広だって人のこと言えないからな!」
「……なるほど、それでか」
「え、何に納得してんの?」
 それから朝倉は、やっといつものようにまぶしく笑ってくれたんだ。

 ――一年二組、朝倉海さん。至急入場門前に……――

 そのとき、朝倉を呼び出すアナウンスがグラウンドから聞こえてくる。
「うわ、やっべ! 忘れてた!」
 そうだ、まだリレーが残ってたんだ。
 朝倉は慌ててグラウンドのほうへと走り出す。……俺と手を繋いだままで。
「ちょっ、朝倉! 手、手!」
 焦って引き留めると、「あ!」と繋いだ手が解かれていく。
 急がなきゃいけないのに、なぜか二人とも足が止まってしまった。二度目の呼び出しアナウンスが聞こえてくる。入場のBGMも、サビに突入していた。
「……ハチマキ、俺が巻いちゃだめ?」
 朝倉の頭に巻かれたままの、リボン結びのハチマキ。それでもリレーは走れるけど。水谷さんのじゃなくて……俺が、巻きたかった。
「ん! やって!」
 朝倉のまぶしい笑顔に促され、左手を伸ばし、リボンの結び目を解く。
 自分の頭に巻くのは下手くそだったみたいだけど、人の頭に巻くのはそう難しくないな。リボンじゃない、普通の結び方しかできないけど。
 きゅ、っと固く結んで「できたよ」と顔を覗いてみる。
「……ありがと、末広」
 そんな真っ赤な顔するなよ……俺まで熱いわ。
「……ん」
 あーもう、なんだこれ。恋ってなんか……すごいな。ずっとこんなんだったら、俺の心臓壊れるんじゃないか。
「じゃ、いってくる! ちゃんと見とけよ!」
 そう言って朝倉は、駆け出しながら俺を指さす。やっぱりアイドルのファンサだ、あれ。
 慌ててグラウンドへと駆けて行くその背中は、いつもよりずっとまぶしく、それから、特別輝いて見えた。

 ふわふわとした気持ちで一人クラス席に戻り、後方で勝負の行方を見守るつもりだった。見とけとは言われたけど、応援しろとは言われてないし。……正直まだ今は、どんな顔をすればいいのか、わからないから。
「博士! ぼーっとしてんなよ、うみんちゅ応援しろ、さっきみたいに!」
「ええ……!?」
 なのに、水谷さんにずるずると引っ張られて、結局一番前の席まで連れてこられてしまった。
「うみんちゅー! いけるよーっ!」
 うちのクラスは、現在三位。アンカーは朝倉だ。一走前の馬渕が一人抜かして、一位がそこまで見えてきていた。
「朝倉、が、がんばれー」
「博士、気張れやぁ!」
「怖いって……!」
 水谷さんが声を張ったほうが、絶対勢いづく気がする。
 けど、朝倉の背中を押すのは、自分だったらいいなとも思う。
 バトンが朝倉に渡ると、アンカー対決に応援の熱もかなり上がっていた。
「朝倉……朝倉ぁーっ!」
 それにつられるように、俺も自然と立ち上がって、声を張り上げていた。
 大きく素早く、びゅんびゅんと回転する足が、見ていて気持ちがいい。かっこいい。ラプトルみたいだ。
「朝倉いけーっ!」
「うみんちゅーっ!」
 そしてデッドヒートの末、朝倉は見事一位でゴールテープを切った。
 いくらなんでも、かっこよすぎるだろ……!
「やばいやばいやばい! うみんちゅヒーロー属性すぎっ!」
 水谷さんが、俺の肩に飛びついてくる。俺もテンションが上がってしまっていて、それに応えるように、一緒になって跳ねていた。
 すると歓声がやまないまま、クラス席が一瞬どよめく。
 なにかと思えば、朝倉がこちらへ向かって走ってきている。
「え、え、?」
 また水谷さんかよ――と、妬む暇もなかった。
「うわぁっ!? 朝倉!?」
 朝倉はその勢いのまま、俺を抱き締めてきたんだ。
「きゃあーっっ!」
 割れんばかりの悲鳴が、グラウンドに轟く。けれど、そんな周りのことなんて一切気にしない様子で、朝倉は無邪気に声を弾ませていた。
「末広っ! ちゃんと見てたかよ!」
 ぎゅうっときつく抱き締められたまま、顔だけをなんとか持ち上げると、視界は朝倉のきらきらの笑顔でいっぱいになる。
 光る汗の粒が、まるで宝石みたいに目に映った。
「見てたに決まってんじゃん……かっこよかったよ、朝倉。ラプトルみたいだった!」
「ふはっ! だからそのたとえ、伝わりにくいって!」
「朝倉に伝わればいいから」
 そう言うと、朝倉は満足げな顔を浮かべて、また俺を抱き締めてくれた。
 それで今度は、俺も同じ。負けないくらい力一杯、朝倉を抱き締め返す。
 悲鳴はやまないけど、そのとき俺には、たしかに聞こえたんだ。
「友達おしまい。今から恋人な」
 あの甘い声が、耳元でそう囁いたのが。