店先には油の匂いがあった。
赤いのぼり。
ショーケースの中のコロッケ。
見慣れた景色。
でも、今日は少しだけ緊張した。
「お、青山くん」
小林さんが奥から顔を出した。
「一人か。慎太郎は?」
「クラブで準備してます」
答えながら、少し胸が引っかかった。
今、赤羽の名前を普通に出せるのに、本人には謝れていない。
人間関係、遠回りが多い。
「チラシ、追加です」
「おう。貼っとくよ」
小林さんはチラシを受け取った。
それから、俺の顔を見た。
「何か言いたそうだな」
「……そんなに顔に出てますか」
「フェンシングの子は、剣持ってなくても構えが出る」
「怖い店主ですね」
「肉屋だからな」
肉屋と関係あるのかは不明だった。
俺はクリアファイルを持ち直した。
「ねりま日和の記者さんって、小林さんの知り合いですか」
「ああ、山浦さんか。前に商店街の記事を書いてくれた人だな。昔、うちの娘と同じ学校でさ」
「紹介してもらうことって、できますか」
言った。
言えた。
心臓が少し速くなった。
小林さんは少し目を細めた。
「体験会の記事か」
「はい。記事になるかはわからないけど、見てもらえるだけでも」
「三枝くんには話してある?」
その一言で、俺は止まった。
「……まだです」
小林さんは腕を組んだ。
怒られるかと思った。
でも、小林さんは笑わなかった。
真面目な顔だった。
「紹介はできる。ただ、取材となると、子どもの顔とか、クラブの責任者とか、いろいろあるだろ。三枝くんにもちゃんと話しな」
「はい」
「でも、青山くんがそこまで考えるようになったのは、いいことだと思うよ」
「そこまでっていうか、考えきれてないです」
「考えきれてないから、人に聞くんだよ」
小林さんは店の奥へ行き、メモ用紙を持って戻ってきた。
そこにメールアドレスと名前を書いてくれた。
『ねりま日和 山浦』
「俺からも連絡しとく。青山くんは、青山くんの言葉で送ってみな」
「俺の言葉で」
最近、その言葉をよく言われる。
赤羽にも、白石先輩にも、小林さんにも。
俺の言葉は、そんなに使い道があるのか。
自分ではまだ半信半疑だった。
小林さんはコロッケを一つ紙袋に入れた。
「食ってけ」
「え、いいです」
「いいから。今日は一人で回ってきたんだろ」
「でも」
「体験会の前払い」
「コロッケで前払いするんですか」
「うちは肉屋だからな」
だから、それは理由になるのか。
俺は紙袋を受け取った。
熱い。
練習後じゃないコロッケ。
でも、うまかった。
一人で食べるコロッケは、いつもより少し静かな味がした。
赤いのぼり。
ショーケースの中のコロッケ。
見慣れた景色。
でも、今日は少しだけ緊張した。
「お、青山くん」
小林さんが奥から顔を出した。
「一人か。慎太郎は?」
「クラブで準備してます」
答えながら、少し胸が引っかかった。
今、赤羽の名前を普通に出せるのに、本人には謝れていない。
人間関係、遠回りが多い。
「チラシ、追加です」
「おう。貼っとくよ」
小林さんはチラシを受け取った。
それから、俺の顔を見た。
「何か言いたそうだな」
「……そんなに顔に出てますか」
「フェンシングの子は、剣持ってなくても構えが出る」
「怖い店主ですね」
「肉屋だからな」
肉屋と関係あるのかは不明だった。
俺はクリアファイルを持ち直した。
「ねりま日和の記者さんって、小林さんの知り合いですか」
「ああ、山浦さんか。前に商店街の記事を書いてくれた人だな。昔、うちの娘と同じ学校でさ」
「紹介してもらうことって、できますか」
言った。
言えた。
心臓が少し速くなった。
小林さんは少し目を細めた。
「体験会の記事か」
「はい。記事になるかはわからないけど、見てもらえるだけでも」
「三枝くんには話してある?」
その一言で、俺は止まった。
「……まだです」
小林さんは腕を組んだ。
怒られるかと思った。
でも、小林さんは笑わなかった。
真面目な顔だった。
「紹介はできる。ただ、取材となると、子どもの顔とか、クラブの責任者とか、いろいろあるだろ。三枝くんにもちゃんと話しな」
「はい」
「でも、青山くんがそこまで考えるようになったのは、いいことだと思うよ」
「そこまでっていうか、考えきれてないです」
「考えきれてないから、人に聞くんだよ」
小林さんは店の奥へ行き、メモ用紙を持って戻ってきた。
そこにメールアドレスと名前を書いてくれた。
『ねりま日和 山浦』
「俺からも連絡しとく。青山くんは、青山くんの言葉で送ってみな」
「俺の言葉で」
最近、その言葉をよく言われる。
赤羽にも、白石先輩にも、小林さんにも。
俺の言葉は、そんなに使い道があるのか。
自分ではまだ半信半疑だった。
小林さんはコロッケを一つ紙袋に入れた。
「食ってけ」
「え、いいです」
「いいから。今日は一人で回ってきたんだろ」
「でも」
「体験会の前払い」
「コロッケで前払いするんですか」
「うちは肉屋だからな」
だから、それは理由になるのか。
俺は紙袋を受け取った。
熱い。
練習後じゃないコロッケ。
でも、うまかった。
一人で食べるコロッケは、いつもより少し静かな味がした。



