可能性は売ってない

次にパン屋へ行った。

レジのお姉さんはチラシを見て、少し困った顔をした。

「貼るのはいいんだけど、うち、子どもの習い事系はけっこう多くて」

「あ、はい」

「あと、店長に確認しないと」

「そうですよね」

会話が止まる。

俺の手の中で、チラシの角が少し曲がった。

ここで帰るのは簡単だ。

簡単なことばかりしていると、たぶん昨日の俺に戻る。

俺は息を吸った。

「置くだけでも大丈夫です。レジ横じゃなくて、チラシ置き場の端とか。ふれあい市に来た人にも見てもらいたくて」

「ふれあい市に来た人?」

「はい。クラブが古いビルの一階にあって、練習帰りに子どもたちがこばやしでコロッケ買ったりして。そういう場所だって知ってもらえるきっかけが欲しくて」

言いながら、俺は自分で少し驚いた。

説明している。
俺の言葉で。
しかも、赤羽の勢いを借りずに。

お姉さんは少しだけ表情を和らげた。

「じゃあ、チラシ置き場に数枚なら」

「ありがとうございます」

二軒目。

チラシは置いてもらえた。

世界はまだ変わらない。

でも、紙は減った。