可能性は売ってない

クラブでは、体験会の動線を何度も確認した。

三枝コーチがホワイトボードにタイムスケジュールを書く。

白石先輩が防具の数を数える。
赤羽がマスクを並べる。
俺がチラシの残りをクリアファイルに入れる。
小学生たちは「体験会で友だち呼ぶ!」と騒いでいる。

いつものクラブが、少しだけ違う方向に動いていた。

赤羽はその中心にいる。

いるはずだった。

でも、ときどき抜ける。

マスクを並べている途中で、同じサイズを二つ重ねたままぼんやりする。
三枝コーチに呼ばれてから、返事が半拍遅れる。
白石先輩との軽い練習で、いつもなら絶対に前に詰める場面で、足が止まる。

俺は見ていた。

見ていたのに、聞けなかった。

自分が気になるから、そう言って聞けばいい。

なのに、俺の足は動かなかった。

フェンシングなら、レーンの上で止まっていると突かれる。
人間関係は、止まっていてもすぐにはランプが光らない。

だから、余計に難しい。