可能性は売ってない

それから数日、体験会準備は進んだ。

進んだ、という言葉は便利だ。

実際には、十歩進んで八歩戻るくらいの進み方だった。

赤羽は学校で勧誘を続けた。

「フェンシング体験会! 日曜! 商店街!」

一組の廊下で声を張る赤羽を見て、俺は三組の入り口からため息をついた。

「選挙演説か」

「朔もやれよ!」

「俺がやったら逆に人が減る」

「そんなことないって!」

「俺は自分の宣伝力を正しく理解している」

「じゃあ、朔は朔の言葉で言えばいいだろ」

赤羽はそう言って、チラシを俺に渡した。

簡単に言う。

朔の言葉で。

俺の言葉なんて、だいたい「別に」と「まあ」と「どうせ」でできている。人を前に押し出す燃料としては、かなり性能が低い。

それでも、三組で何人かに声をかけた。

「日曜、商店街でフェンシングの体験会ある。防具つけるし、剣も軽い。やるだけなら無料」

「青山が説明すると、なんか安全そう」

前の席の男子が言った。

「どういう意味」

「赤羽が言うと楽しそうだけど、勢いが怖い」

「正しい認識だな」

「青山が言うと、やっても大丈夫そう」

大丈夫そう。

俺はチラシを見た。

『可能性は売ってない。でも、体験はできます。』

俺みたいな人間が、誰かに「大丈夫そう」と思わせられるなら、それはそれで役に立つのかもしれない。

役に立つ。

その言葉も、少しむずがゆい。