可能性は売ってない

翌日、俺は正式な入部届をクラブに出した。

受付机の前で紙を渡すと、三枝コーチは少しだけ目を細めた。

「青山くん」

「はい」

「受理しました。今日から正式に、練馬フェンシングクラブの部員です」

赤羽が横で両手を上げた。

「よっしゃあ!」

「うるさい」

「正式な仲間!」

「声」

「仮じゃない仲間!」

「言い方」

赤羽は本気で嬉しそうだった。
嬉しそうすぎて、こっちが困る。

白石先輩は壁際で剣を拭きながら、短く言った。

「ようやく」

「ようやくって、俺、そんなに遅かったですか」

白石先輩は少しだけ口元を動かした。

笑ったのかもしれない。

三枝コーチが俺にクラブのロゴ入りの小さなタオルを渡した。

「正式部員に支給」

「え、物があるんですか」

「あるよ。うちにも多少の制度はあります」

「古いビルの一階なのに」

「青山くん、最近うちへの遠慮が減ったね」

「正式部員なので」

言ってから、自分で少し驚いた。

正式部員なので。

そんな言葉が、俺の口から出るとは。

赤羽がにやにやしている。

「朔、今のいい」

「何が」

「正式部員って自分で言った」

「記憶から消せ」

「無理。大事な場面だから保存した」

「お前の脳内からデータ削除する方法ないのか」

「ない!」

「不便だな」

でも、悪くはなかった。

正式な仲間。

その言葉は、少しむずがゆい。
むずがゆいけど、嫌ではなかった。