可能性は売ってない

俺はその日の放課後、三組で試した。

「今度、フェンシングの体験会があるらしい」

我ながら他人事の声だった。

前の席の男子が振り向く。

「へえ。青山がやってるやつ?」

「仮……いや、やってるやつ」

仮、と言いかけて止めた。
なぜ止めたのか、自分でもよくわからない。

「面白い?」

「……難しい」

「第一声それ?」

別の女子が笑った。

「痛くないの?」

「そんなに。胴体だけ有効で、先端はボタンみたいになってる」

「胴体だけ有効って、説明がもう怖いんだけど」

「あと、攻撃権とかある」

「攻撃権?」

「俺もまだよくわからない」

「青山がわからないもの、体験に誘うの?」

正論だった。
俺は黙った。

赤羽ならここで「やればわかる!」と言う。
でも、俺にはその勢いがない。

「まあ、興味あったら」

俺はそう言って終わった。

結果、誰も「行く」とは言わなかった。