可能性は売ってない

翌日の昼休み、赤羽は一組で勧誘を始めた。

俺はそれをなぜか廊下で目撃した。
いや、目撃したというか、声が聞こえた。校舎の端まで届く声だった。赤羽の声帯は学校設備として登録したほうがいい。

「フェンシング体験会、来ないか!」

一組の教室から笑い声が上がる。

「フェンシングって痛そう」

「剣道?」

「白いやつ?」

「金かかりそう」

「赤羽がやるならうるさそう」

最後のやつは正しい。

赤羽はめげない。

「痛くない! 安全! めちゃくちゃ楽しい!」

「突かれるんでしょ?」

「突くけど痛くない!」

「言い方が怖い」

俺は廊下の壁にもたれて、そのやり取りを聞いていた。

人に何かを勧めるのは難しい。
自分が楽しいと思っているものほど、説明が下手になるのかもしれない。

赤羽にとってフェンシングは、剣ってかっこいいから、で十分だった。
でも、知らない人には十分じゃない。