可能性は売ってない

昼休み、購買へ向かう途中で赤羽に捕まった。

「朔!」

「声」

「今日、クラブ行くよな」

「昨日練習試合だったのに?」

「だから行くんだろ」

「論理が赤羽式すぎる」

赤羽はいつも通り笑っていた。

ただ、目の下に少し疲れが残っている気がした。

俺はパン棚の前でコロッケパンに手を伸ばした。

赤羽がにやっとする。

「練習後じゃなくてもコロッケ」

「偶然だ」

赤羽は笑って、俺の横に並んだ。

「昨日さ」

「何」

「黒瀬、やっぱ強かったな」

赤羽が自分からその名前を出したので、俺は少し驚いた。

「……強かったな」

「俺、急ぎすぎって言われた」

「言われてたな」

「ムカつくよな」

「まあ」

「でも、たぶん合ってる」

赤羽の声は明るいままだった。

でも、いつもの「次は勝つ!」だけじゃない、何かを噛みしめるみたいな響きがあった。

「朔は?」

「俺?」

「昨日、どうだった」

「五対〇で負けた」

「数字以外」

「存在感が削られた」

「それは……うん、なんか、わかる」

わかるのかよ。

赤羽はパン売り場の横で腕を組んだ。

「でも、最初の一本より、最後の一本のほうが前に出てた」

「お前、試合見てたのか」

「見てた」

「自分の試合前なのに?」

「朔が出てたから」

その言い方が、妙にまっすぐで、俺は返事ができなかった。