可能性は売ってない

練習試合が終わると、俺たちは東京ノースの入口の前に立った。

自動ドアが静かに開いて、静かに閉まる。
練馬クラブのガラス戸と違って、音がしない。

音がしないと、逆に落ち着かなかった。

三枝コーチは相手コーチに挨拶をしている。
白石先輩はスポーツドリンクを飲んでいる。
赤羽は少し離れたところで、バッグの紐を握っていた。

俺は隣に立った。

「負けたな」

言ってから、もっと他に言い方があっただろうと思った。

赤羽は笑った。

「負けた」

「笑ってるけど」

「悔しいから」

「悔しいと笑うのか」

「泣くよりいいだろ」

「まあ、駅前で泣かれると困る」

「朔、慰め下手だな」

「今日知ったのか」

赤羽は少しだけ肩を揺らした。
そして、前を見たまま言った。

「負けたけど、次は勝つ」

その言葉は、試合前よりも重かった。

根拠があるわけじゃない。
今日、黒瀬のほうが強かった。
赤羽は負けた。
それは事実だ。

でも、赤羽は「次」を言う。
負けた瞬間に。

俺はそれが少しだけ眩しかった。
入学式の日の校長先生の「可能性」より、ずっと具体的で、ずっと暑苦しい眩しさだった。