可能性は売ってない

赤羽はマスクを外した。
汗で前髪が額に張り付いている。
息が上がっている。

それでも、赤羽は笑った。

「くっそ、負けた!」

明るい声だった。

でも、悔しさがあった。
笑っているのに、目だけが笑っていなかった。

黒瀬はマスクを外して、淡々と言った。

「前より速くなったね」

「だろ」

「でも、急ぎすぎ」

赤羽の笑顔が少しだけ固まる。

黒瀬は続けた。

「練馬だと、その速さで通るんだろうけど」

その一言で、赤羽の肩がわずかに動いた。

俺は、何か言いたくなった。

でも、何を言えばいいかわからなかった。

「次は勝つ」

赤羽が言った。

黒瀬は薄く笑った。

「そう」

それだけだった。