可能性は売ってない

東京ノースフェンシングアカデミーは、練馬クラブとは全然違う建物に入っていた。

まず、一階がガラス張りだった。

ガラス戸じゃない。
ガラス張り。

そこからして格が違う。
うちのクラブのガラス戸は、引き戸のレールに少し砂が入っていて、開けるときに「がらっ」という音がする。東京ノースの入口は、自動ドアが静かに開いた。自動ドア。文明だ。

中に入ると、受付のカウンターがあった。
壁にはクラブのロゴ。
棚にはトロフィー。
天井は高くて、照明は明るく、床はぴかぴかで、レーンは何本もまっすぐ伸びている。

ピストの横にはきれいに巻かれたコード。
壁には電光掲示板。
用具棚には同じ色のバッグが整然と並んでいる。

俺は思った。

(……うち、古い三階建てビルの一階だよな)

いや、わかっていた。
練馬クラブは古い。蛍光灯は少し唸る。壁のポスターは角が丸まっている。レーンの端には小学生が忘れたタオルが置かれる。受付机の引き出しは、閉めるときにちょっと引っかかる。

でも、それが嫌だと思ったことはない。