可能性は売ってない

午前中は、なんとなく過ぎた。

移動教室の場所を確認して、クラス写真で無難な顔をして、委員決めでは視線を机に落として、何とかどの役にも選ばれずに済んだ。こういうときの俺の存在感の薄さは、もはや技能と言っていい。

昼休みになって、俺は購買で買ったパンを持って廊下に出た。

教室の中はもう小さなグループで埋まっていた。昨日知り合ったばかりなのに、なぜそんなに自然に固まれるのか。磁石か。人間には磁力があるのか。俺だけ非磁性体なのか。

階段横の窓際に、ちょうど人の少ない場所があった。俺はそこでパンの袋を開けた。

焼きそばパン。

可もなく不可もなく。青春小説っぽい食べ物ではある。問題は、食べている本人が青春に対してあまり協力的ではないことだ。

一口食べたところで、廊下の向こうから声がした。

「朔ー!」

反射で肩が跳ねた。

声がでかい。校内放送かと思った。

「昨日の初ポイントの人ー!」

最悪だった。

廊下にいた一年生、二年生、たぶん先生まで、何人かがこっちを見た。

俺は焼きそばパンを持ったまま固まった。口の中の麺が急に重い。初ポイントの人って何だ。人間を昨日の出来事で分類するな。しかも廊下で叫ぶな。