可能性は売ってない

クラブに着くと、ガラス戸の向こうからカン、と音がした。

その音を聞いた瞬間、足の痛みが少しだけ遠のいた。

いや、遠のいた気がしただけだ。実際は痛い。太ももは現実主義者だ。

「こんにちはー!」

赤羽が元気よく入る。

俺も後ろから「こんにちは」と言った。

レーンの端では、白石先輩がマスクを脇に抱えて立っていた。

三枝コーチがホイッスルを首にかけたまま手を振った。

「青山くん、今日も来たね」

「仮なので」

「仮でも来たら練習です」

「ですよね」

「今日は少し実戦寄りにするよ」

赤羽が目を輝かせた。

「お、朔と一本?」

「慎太郎はすぐそうやって突っ走る」

三枝コーチは笑ってから、俺を見た。

「青山くん、フットワークには少し慣れてきた?」

「少しだけです」

「いいね。少しで十分。じゃあ、その少しを使って、今日は距離をやろう」

「距離?」

白石先輩が短く言った。

「間合い」

三枝コーチがうなずく。