可能性は売ってない

結局、その日も俺は剣を振る前に足で死んだ。
最後に少しだけ赤羽と向かい合って、マスクを被り、一本だけ軽くやった。

軽く。

赤羽の言う軽くは、普通の人間にとって軽くない。
でも昨日みたいに、ただ速さに飲まれるだけではなかった。

赤羽が前に出る。
俺は後ろへ下がる。
後ろ足を逃がしすぎない。
剣先を胴から外さない。
赤羽の肩が沈む。

来る。

思った瞬間、俺の足が少しだけ前に出た。

カン。

剣がぶつかった。

ポイントにはならなかった。

赤羽の剣先が先に俺の有効面へ触れて、ランプが光った。

ピッ。

「はい、終了」

三枝コーチの声がした。

俺は息を吐いて、マスクを外した。

負けた。

普通に負けた。

でも、昨日より少しだけ、何が起きたかわかった。

それが悔しい。

わかった分だけ、悔しい。

赤羽はマスクを外して、にかっと笑った。

「今、前に出たな!」

「負けたけど」

「でも出た」

「負けた」

「出たって!」

「だから負けたって」

「負けても出たなら、次がある」

「少年漫画みたいなこと言うな」

「朔、今のめちゃくちゃよかった」

赤羽の声は、いつものように大きかった。
でも、茶化してはいなかった。

俺の足が少しだけ前に出たことを、本気で喜んでいる。

なんでこいつは、俺本人より先に俺の変化を喜べるんだろう。

そう思ったら、少しだけ困った。