可能性は売ってない

「もう一回」

白石先輩が言う。

俺は息を吐いて、構え直した。

前へ。
後ろ足で押す。
前足を置く。
戻る。
距離を崩さない。

一回目より、少しだけましだった気がした。
気がしただけかもしれない。

でも、赤羽がすぐに言った。

「今の、いい!」

「早いな、反応が」

「後ろ足、押せてた」

「本当に?」

「本当。さっきより足出てた」

赤羽は当たり前みたいに言った。

俺は少しだけ黙った。

自分では、ほとんどわからない。

ただ、さっきより床に引っかからなかった気がするだけ。

それを赤羽は見ている。

こいつはうるさい。
押しが強い。
説明は擬音。

なのに、人の変化にはやたら敏感だ。