可能性は売ってない

朝食の食卓で、母さんが味噌汁をよそっていた。

「おはよう。顔、眠そう」

「普通」

「歩き方、変だけど」

「普通」

「普通って便利ね」

母さんは笑いながらテーブルに味噌汁を置いた。

俺は椅子に座ろうとして、太ももに刺すような痛みを食らった。

「っ……」

俺は仮入部届をテーブルに出した。

母さんはそれを見て、少し目を丸くした。

「入るの?」

「仮」

「仮?」

「正式じゃない。仮入部。だから、別に本気とかじゃない」

早口になった。自分で聞いていても、言い訳の密度が高い。

母さんは俺の顔と紙を見比べて、それからボールペンを取った。

「保護者サイン、ここ?」

「うん」

「月謝とか、あとで説明してね」

「たぶん」

「そこは、ちゃんと」

「……はい」

母さんはさらっと名前を書いた。

俺が昨日からあれこれ考えて、捨てるか出すかで足踏みしていた紙に、母さんは十秒でサインした。

大人の処理能力、怖い。

「無理はしないでね」

「仮だから」

「仮でも、足は痛くなるでしょ」

「もう痛い」

「じゃあ、なおさら」

母さんはそう言って、また台所へ戻った。