可能性は売ってない

帰り道、赤羽は予告通りコロッケ屋に寄った。

「練習後のコロッケ!」

「元気だな」

「朔も食べる?」

「いらない」

「本当に?」

「……一個」

「ほら!」

「勝ち誇るな」

揚げたてのコロッケは熱かった。

商店街の端で、俺は紙袋からコロッケを出して、少しずつ食べた。外はさくさくで、中は甘い。玉ねぎの甘さが、妙にちゃんとしていた。

「どう?」

赤羽が聞く。

「……うまい」

「だろ。揚げ物は裏切らない」

「胃もたれはする」

赤羽は笑った。

西武線の音が夕方の空に伸びていく。商店街の明かりが少しずつ点き始めて、昨日までただ通り過ぎていた道が、知らない会話で満ちているように見えた。

赤羽はコロッケを食べ終えて、紙袋を丸めた。

「朔」

「何」

「今日、来てよかっただろ」

「決めつけるな」

「じゃあ、来て悪かった?」

俺は答えなかった。

悪くはなかった。

疲れたし、痛いし、結局何度も負けた。
何本も赤羽とやり合った結果、昨日のポイントがまぐれだとわかった。

でも、悪くはなかった。

その沈黙を、赤羽は勝手に読んだらしい。

「また来いよ」

「……考える」

駅へ向かう道で、赤羽とは別れた。

別れ際、赤羽は軽く手を上げた。

「じゃあな、朔」

「……また」

また、と言ってしまってから、俺は少しだけ後悔した。

でも赤羽は聞き逃さなかった。

「お、またって言った!」

「言ってない」

「言った!」

「空耳」

「俺、耳いいから!」

「じゃあ悪くなれ」

赤羽の笑い声が、夕方の道に残った。