可能性は売ってない

午後の終わり頃、三枝コーチがミニデモを提案した。

「最後に、少しだけ試合形式を見てもらおうか」

子どもたちが「見たい!」と声を上げた。

親たちも、少し前へ出る。

商店街の人たちも集まってくる。

小林さんは肉のこばやしの店先から腕を組んで見ていた。
田端さんは花屋の前でエプロン姿のまま立っている。
山浦さんはカメラを構えた。
赤羽の父親も、少し近づいた。

三枝コーチが言った。

「白石と慎太郎で――」

「朔とやりたい」

赤羽が言った。

俺は赤羽を見た。

「体験会で初心者を晒すな」

赤羽は笑った。

「初心者じゃないだろ。正式部員」

その言葉に、胸の奥が少しだけ鳴った。

正式部員。

赤羽に言われると、逃げ道がない。

白石先輩が俺を見る。

「青山、やれば」

「先輩まで」

三枝コーチは少し考えてから、うなずいた。

「一本だけ。安全に。勝ち負けより、動きを見せる」

赤羽がマスクを手に取る。
俺も、マスクを取った。

指先が少し汗ばんでいる。
緊張している。

商店街の人たち。
子どもたち。
山浦さん。
赤羽の父親。
小林さん。
田端さん。
三枝コーチ。
白石先輩。
そして赤羽。

こんなに人が見ている場所で赤羽と向かい合うなんて、少し前の俺なら考えもしなかった。

入学式の日の俺は、体育館の校長先生の話を聞きながら、可能性ってどこに売ってんだろ、とぼんやり考えていた。

あのときの俺に言ってやりたい。

コンビニにはない。
商店街にも売ってはいない。
でも、古いビルの一階にガラス戸があって、その向こうで金属音が鳴っている。
そこに足を止めろ。
いや、足を止めたら、赤羽が勝手に押し込んでくる。
そこは覚悟しておいたほうがいい。