可能性は売ってない

午後になると、体験会は少しずつ盛り上がってきた。

三組の男子の妹は二回目のフットワークに並んだ。

最初にマスクだけ被った子は、剣を持ってみたいと言った。

親も一人、体験した。

赤羽が「大人の本気、見せてください!」と言って三枝コーチに「声」と止められた。

白石先輩は、子どもが剣を握る手を直すとき、いつも通り短く言った。

「力を抜いて。軽いものほど、力むと重くなる」

その言葉を聞いて、俺は少しだけ笑った。

最初に聞いたときは、哲学かと思った。
今でも少し思っている。
でも、その物理は、ちゃんと俺の中に残っている。

山浦さんは、撮影の合間に俺に少しだけ話を聞いた。

「青山くんは、どうしてフェンシングを始めたんですか」

「音に釣られました」

「音?」

「金属音です。カンって」

「それだけ?」

「それだけ、じゃないかもしれないですけど。最初はそれだけでした」

山浦さんはメモを取った。

「赤羽くんに誘われたんですよね」

俺は赤羽のほうを見た。

赤羽は子どもに前進の見本を見せている。三割の声を目指して、たぶん四割五分くらいになっている。

「誘われたというか、押し込まれました」

「押し込まれた」

「はい。強引でした」

山浦さんは笑った。

俺は少し考えて、言葉を足した。

「でも、押し込まれなかったら、俺は入ってなかったと思います」

山浦さんは、今度はメモを取らずに俺を見た。

「今は?」

「今は」

俺はチラシを見た。

『可能性は売ってない。でも、体験はできます。』

「自分で来てます」

そう言うと、山浦さんは少しだけうなずいた。