可能性は売ってない

赤羽の父親は、少し離れたところで体験会を見ていた。

赤羽はそれを意識していた。

わかる。

動きが硬い。

子どもに説明するときも、父親のほうへ視線が一瞬飛ぶ。フットワークの見本を見せる前に、肩に余計な力が入る。いつもの赤羽なら、父親が見ていようが商店街会長が見ていようが宇宙人が来ようが、「剣ってかっこいい!」で押し切りそうなのに。

今日は違う。

父親は途中で赤羽に声をかけた。

「楽しそうだな」

赤羽は笑って答えた。

「まあな」

それだけ。

赤羽が「まあな」で終わった。

世界の終わりかと思った。

いつもの赤羽なら、「楽しいに決まってるだろ! 見ろよ、今の前足!」くらい言う。

でも、言わない。

父親の前で、言えない。

残りたい。

ここで続けたい。

その言葉が、赤羽の喉の奥で止まっているのが見える気がした。