可能性は売ってない

昼前、カメラを肩にかけた人がブースへ近づいてきた。

山浦さんだった。

「青山くんですか?」

声をかけられて、俺は受付表を持ったまま少し固まった。

「……はい」

「ねりま日和の山浦です。メールありがとうございました」

「こちらこそ。勝手に送って怒られました」

「それは……いい経験ですね」

「いい経験に分類していいんですかね」

山浦さんは笑った。

それから、机の上のチラシを見た。

「この見出し、青山くんが書いたんですよね」

俺は顔をそらした。

「……はい」

「いいですね」

山浦さんは三枝コーチに挨拶し、撮影可能な範囲を確認した。三枝コーチは用意していた保護者確認リストを出し、顔が写っていい子、後ろ姿だけならいい子、撮影不可の子を丁寧に説明する。

その姿を見て、俺は少しだけ胸が引き締まった。

三枝コーチは軽口を言う大人だ。
でも、クラブを守るときは、ちゃんと大人になる。
俺が無断でメールしたとき、怒られた理由がもう一度わかった。

好きだから、勢いだけでいいわけじゃない。
守りたい場所なら、守るための手順がある。

山浦さんは、子どもたちの足元を撮った。

テープで作った簡易レーン。
小さい子が前へ出る瞬間。
赤羽が手を広げて距離を示すところ。
白石先輩がマスクの紐を直すところ。
三枝コーチが保護者に説明するところ。
肉のこばやしの前から小林さんが見守っているところ。
商店街の人たちが、いつの間にか少しずつ集まっている。

それを見て、俺は思った。

クラブは、本当に外へ出ている。

古いビルの一階に閉じていた音が、商店街の空気に混ざっている。

カン、という金属音が、コロッケの油の匂いと一緒に、練馬の昼に広がっている。

変な光景だった。

でも、悪くなかった。