可能性は売ってない

昼前になって、三組の前の席の男子が来た。

妹を連れていた。
小五だと言っていた子だ。
髪を二つに結んで、少し警戒した顔でブースを見ている。

「青山、来た」

「本当に連れてきたんだ」

「剣好きだから」

妹は俺を見た。

「痛い?」

今日、何度目かわからない質問だった。

でも、少しずつ答え方がわかってきた。

「痛いより、最初は変な感じ」

「変?」

「顔が網になる」

「顔が網?」

「マスク被ると、世界が四角く見える」

妹は少しだけ興味を持った顔をした。

赤羽が横から入ってきた。

「そして剣がかっこいい!」

声、四割。

ぎりぎり許容範囲かもしれない。

「剣、重い?」

妹が聞く。

赤羽がフルーレを持って見せた。

「軽いよ。筆みたいな感じ」

お。

珍しく説明が人語だ。

「でも、最初は剣なし。足から」

俺が言う。

妹は少し不満そうだったが、白石先輩が静かに言った。

「足ができると、剣がかっこよく見える」

説得力が妙にあった。

妹はマスクを被り、簡易レーンに立った。

赤羽が前に立つ。

「前足をこっち。後ろ足は斜め。膝を軽く。そうそう!」

妹がぎこちなく前に一歩出る。

赤羽の顔がぱっと明るくなった。

「いい! 今の前足、ちゃんと出てた!」

俺は横から言った。

「三割って言われてそれか」

近くにいた親子が笑った。

妹も、マスクの中で少し笑ったように見えた。

赤羽は口を押さえた。

「今ので三割五分」

「交渉するな」

「でも、いい足だったから」

「褒めるのはいい。音量を下げろ」

「はい」

白石先輩がぼそっと言った。

「青山、赤羽制御うまくなった」

「役職じゃないです」

三枝コーチが受付の向こうで笑った。