可能性は売ってない

――体験会前夜、俺は一人で少しだけ商店街を歩いた。

赤羽は三枝コーチと明日の準備について話していた。
白石先輩は先に帰った。
俺は体験会の会場になる場所を見に行った。

商店街の空きスペース。
ふれあい市の日には、テントが並ぶらしい。

今はまだ何もない。
ただの舗装された広場だ。

端にベンチがあり、掲示板があり、自販機がある。

俺はその場所に立った。

ここにテープを貼る。
簡易レーンを作る。
子どもたちがマスクを被る。

赤羽が声を三割に抑えようとして失敗する。
白石先輩が短く説明する。
三枝コーチが安全確認をする。
俺は受付で名前を書いてもらう。

もしかしたら、山浦さんが来る。
もしかしたら、誰かがフェンシングを面白いと思う。
もしかしたら、入会する子がいる。
もしかしたら、協賛の話が出る。

もしかしたら。

可能性。

売ってないもの。

でも、体験はできるもの。

俺が走っても、世界はすぐには変わらない。

でも、少しだけ動き始めていた。