可能性は売ってない

家に帰ってから、俺はまたメールを確認した。

山浦さんからの返信はまだない。

小林さんから三枝コーチへ連絡は行っていて、三枝コーチから正式に取材の案内を送ったらしい。
俺の無断メールは、三枝コーチの大人の力によって、何とか事故にならずに済んだ。

大人、すごい。

そして怖い。

俺は机の上に体験会の受付表を広げた。

赤羽に謝る文面も、スマホのメモに打った。

『こないだは言いすぎた』

消す。

『勝手って言ったの、違った』

消す。

『赤羽がいなくなったら困る』

消す。

重い。

でも、本当だ。

『お前が隣にいると、俺は前に出られる』

打ってから、机に額をぶつけたくなった。

なんだ、この文章。

暑い。

赤羽の声量に感染したのかもしれない。

俺は削除した。

でも、削除しても、頭の中からは消えなかった。

赤羽が隣にいると、俺は前に出られる。

それは事実だった。

赤羽がいなければ、俺はあのガラス戸を開けなかった。
剣を持たなかった。
負けて悔しいなんて思わなかった。
体験会のチラシを作らなかった。
商店街を一人で回らなかった。
記者にメールを送って、三枝コーチに怒られることもなかった。

怒られることまで人生の成果に含めるのはどうかと思うけど、含めないと説明できない。

俺はスマホを伏せた。

謝るのは、明日。

そう思った。

逃げたのではなく、準備した。

ということにしておく。