「優斗、綾乃」
優しい声に振り返れば、その声の持ち主がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
「そろそろ飯くるよ」
龍介さんはわたし達のところまで来ると、わたしに手を差し出す。その手に手を重ねれば、力強く支えて立たせてくれる。
「なに話してたの?」
「ライブの話です」
「年末からの? 綾乃来る? 席、用意するよ」
「ほら、綾乃おいでよ。龍介さんと俺が歌うんだよ。格好いいから」
「そういえば、今回のツアーは幕張に行くよ。ちょうどクリスマスの日にライブだったかな」
「そう! クリスマス! 俺の誕生日。だから来て」
「優くん誕生日なの? わたしもクリスマス誕生日」
「マジ!? 二十五?」
優くんの問いかけに頷けば、わたしの手を握る人に引き寄せられた。
「綾乃、誕生日ならお祝いしようよ。ライブが終わったら、一緒に。予定ある?」
「ない、です。でも、ライブの日になんて」
「ライブ中だから盛大なお祝いはできないし、ホテルの部屋とかになっちゃうけど、少しだけなら時間作れるから」
龍介さんは、少し申し訳なさそうに、そして少し照れたようにそう言った。
大切なライブ期間中にわたしのために時間を作ってくれるなんて。龍介さんと誕生日を過ごすなんて、そんなことがあっていいのだろうか。わたしのような、ただの一般人が、遠い世界にいるはずの彼と、二人きりの時間を共有するなんて。その事実だけで、胸の奥が熱くなる。
(龍介さんの傍にいてもいいの? 龍介さんと一緒に過ごすことを望んでもいいの?)
その答えを探すように、自分に向けられる龍介さんの瞳を見つめた。そこにあるのは、真摯で、少しも曇りのない、真っ直ぐな瞳。
龍介さんの言葉がいつだって不思議なほどに真っ直ぐに届くのは、彼が疑いを持つ余地がないほどに、純粋で正直な人だから。裏表がなく、自分が発する言葉に責任と真実が伴っている。
頭の中で警報が鳴り響く。「ダメだ、期待しちゃダメだ。この特別な時間は一時的なものだ。深入りすれば、傷つくだけだ」と、理性と現実が叫んでいる。彼の優しさに触れるたびに、彼への想いは深まるばかり。
なのに、目の前の彼の瞳は、子供みたいに純粋な期待に満ちていて。わたしの答えを待つ彼の表情は、国民的アーティストのそれではなく、ただの一人の男性の少し不安げで、でも心からの願いを込めた顔だった。
「……嬉しいです」
理性よりも先に、心が勝手に答えていた。彼への特別な想いを、もう隠し通すことはできなかった。この一瞬の幸福を、わたしは選んでしまった。
その笑顔を見た瞬間、警鐘も、後悔も、未来への不安も、全てが意識の彼方へと吹き飛んだ。わたしは今、この瞬間、彼の笑顔が見られただけで、世界中の何よりも満たされている。彼との時間を、わたしは心から望んでいるのだ。
「ありがとう。じゃあ、誕生日は一緒に過ごそう」
龍介さんの声は、弾むように明るかった。わたしも自然と笑みがこぼれる。
「ね、綾乃、ライブも来てね。龍介さんだけじゃなくて俺のことも見てね」
「ライブは……」
「無理はしなくてもいいけど、綾乃が来てくれるなら良い席を用意するよ」
龍介さんの言葉に、わたしは小さく頷いてみせた。
優しい声に振り返れば、その声の持ち主がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
「そろそろ飯くるよ」
龍介さんはわたし達のところまで来ると、わたしに手を差し出す。その手に手を重ねれば、力強く支えて立たせてくれる。
「なに話してたの?」
「ライブの話です」
「年末からの? 綾乃来る? 席、用意するよ」
「ほら、綾乃おいでよ。龍介さんと俺が歌うんだよ。格好いいから」
「そういえば、今回のツアーは幕張に行くよ。ちょうどクリスマスの日にライブだったかな」
「そう! クリスマス! 俺の誕生日。だから来て」
「優くん誕生日なの? わたしもクリスマス誕生日」
「マジ!? 二十五?」
優くんの問いかけに頷けば、わたしの手を握る人に引き寄せられた。
「綾乃、誕生日ならお祝いしようよ。ライブが終わったら、一緒に。予定ある?」
「ない、です。でも、ライブの日になんて」
「ライブ中だから盛大なお祝いはできないし、ホテルの部屋とかになっちゃうけど、少しだけなら時間作れるから」
龍介さんは、少し申し訳なさそうに、そして少し照れたようにそう言った。
大切なライブ期間中にわたしのために時間を作ってくれるなんて。龍介さんと誕生日を過ごすなんて、そんなことがあっていいのだろうか。わたしのような、ただの一般人が、遠い世界にいるはずの彼と、二人きりの時間を共有するなんて。その事実だけで、胸の奥が熱くなる。
(龍介さんの傍にいてもいいの? 龍介さんと一緒に過ごすことを望んでもいいの?)
その答えを探すように、自分に向けられる龍介さんの瞳を見つめた。そこにあるのは、真摯で、少しも曇りのない、真っ直ぐな瞳。
龍介さんの言葉がいつだって不思議なほどに真っ直ぐに届くのは、彼が疑いを持つ余地がないほどに、純粋で正直な人だから。裏表がなく、自分が発する言葉に責任と真実が伴っている。
頭の中で警報が鳴り響く。「ダメだ、期待しちゃダメだ。この特別な時間は一時的なものだ。深入りすれば、傷つくだけだ」と、理性と現実が叫んでいる。彼の優しさに触れるたびに、彼への想いは深まるばかり。
なのに、目の前の彼の瞳は、子供みたいに純粋な期待に満ちていて。わたしの答えを待つ彼の表情は、国民的アーティストのそれではなく、ただの一人の男性の少し不安げで、でも心からの願いを込めた顔だった。
「……嬉しいです」
理性よりも先に、心が勝手に答えていた。彼への特別な想いを、もう隠し通すことはできなかった。この一瞬の幸福を、わたしは選んでしまった。
その笑顔を見た瞬間、警鐘も、後悔も、未来への不安も、全てが意識の彼方へと吹き飛んだ。わたしは今、この瞬間、彼の笑顔が見られただけで、世界中の何よりも満たされている。彼との時間を、わたしは心から望んでいるのだ。
「ありがとう。じゃあ、誕生日は一緒に過ごそう」
龍介さんの声は、弾むように明るかった。わたしも自然と笑みがこぼれる。
「ね、綾乃、ライブも来てね。龍介さんだけじゃなくて俺のことも見てね」
「ライブは……」
「無理はしなくてもいいけど、綾乃が来てくれるなら良い席を用意するよ」
龍介さんの言葉に、わたしは小さく頷いてみせた。


