◇
タクシーが海岸の脇を走る道路を進む。ちょうど検見川の浜の終着地点、美浜大橋に差し掛かる。
「すみません、ここで大丈夫です」
お金を出す手が震えてしまう。運転手さんに微かに笑われながらも、支払いを終え、その地に降り立った。気持ちをそのままに歩道を超え、木々の隙間にある小さな道を抜けて海岸に出ると、すぐに階段を駆け上がり砂浜に向かう。
沈む夕陽、遠くに揺らめくヨット、眩しいほどに煌めく水面。いつもと変わらない、検見川の浜。いつもわたしを癒やして勇気づけてくれていた海。今日は、今までで一番美しい。きっとそう見えるのは、黒い帽子を被る人がそこにいるから。
大きな背中に向かって駆けだせば、足音が聞こえたのか彼が振り返る。そして、わたしはそのまま目の前の胸に飛び込んだ。
「綾乃」
「——あんなの、反則ですよ」
「仁さんとも、みんなとも話して、決めたんだ。綾乃のお兄さんにも今回のことを話してお願いした。どうしても綾乃と一緒にいたかったから」
この瞳を何と表現したら良いだろう。迷いのない瞳。曇りのない瞳。オレンジ色に輝くその瞳がわたしを捉えて柔らかく細められる。
「綾乃、ひとつ行かなきゃいけないところがある」
そう言って、龍介さんはわたしを幕張のホテルに連れてきた。卓也がわたしにあてがったホテル。
「龍介さん……」
「これも、けじめだね。俺の事務所に電話があったんだ。だから、話しに行きますって言ってある」
わたしたちは同じように黒い帽子を被り、お互いの手をとる。最上階まで上がり、廊下を進めば、あの大きな扉が見えてくる。
「大丈夫?」という龍介さんの言葉にしっかり頷いて見せる。
「行こうか」
タクシーが海岸の脇を走る道路を進む。ちょうど検見川の浜の終着地点、美浜大橋に差し掛かる。
「すみません、ここで大丈夫です」
お金を出す手が震えてしまう。運転手さんに微かに笑われながらも、支払いを終え、その地に降り立った。気持ちをそのままに歩道を超え、木々の隙間にある小さな道を抜けて海岸に出ると、すぐに階段を駆け上がり砂浜に向かう。
沈む夕陽、遠くに揺らめくヨット、眩しいほどに煌めく水面。いつもと変わらない、検見川の浜。いつもわたしを癒やして勇気づけてくれていた海。今日は、今までで一番美しい。きっとそう見えるのは、黒い帽子を被る人がそこにいるから。
大きな背中に向かって駆けだせば、足音が聞こえたのか彼が振り返る。そして、わたしはそのまま目の前の胸に飛び込んだ。
「綾乃」
「——あんなの、反則ですよ」
「仁さんとも、みんなとも話して、決めたんだ。綾乃のお兄さんにも今回のことを話してお願いした。どうしても綾乃と一緒にいたかったから」
この瞳を何と表現したら良いだろう。迷いのない瞳。曇りのない瞳。オレンジ色に輝くその瞳がわたしを捉えて柔らかく細められる。
「綾乃、ひとつ行かなきゃいけないところがある」
そう言って、龍介さんはわたしを幕張のホテルに連れてきた。卓也がわたしにあてがったホテル。
「龍介さん……」
「これも、けじめだね。俺の事務所に電話があったんだ。だから、話しに行きますって言ってある」
わたしたちは同じように黒い帽子を被り、お互いの手をとる。最上階まで上がり、廊下を進めば、あの大きな扉が見えてくる。
「大丈夫?」という龍介さんの言葉にしっかり頷いて見せる。
「行こうか」


